「原価計算について」の記事では原価計算についての大枠を解説しました。今回は、原価計算の対象とすべき支出、すなわち「原価性」のある支出について解説します。言い換えれば、「原価性」のない支出は、事業年度末までに発生さえしていれば、(原則)費用計上して構わないということです。
「原価性」のある支出とは
「原価計算について」の記事では「原価」を「売上を得るため直接必要な費用」と表現しました。この意味を少し深掘りしたいと思います。例を出した方がイメージがつきやすいかもしれません。
- 小売業者の商品売上に対する商品の仕入代金
- 建売業者の住宅の販売収入に対する材木費、現場監督に対する報酬
- ソフトウェア開発業者の売上に対するエンジニアへの報酬
これらはいずれも「原価性」のある支出ということになります。
業種によって異なる「原価性」の判断
それでは次の例はどうでしょう?
A:運送業者の売上に対する配送車両のガソリン代 → 原価性あり
B:製造業者の売上に対する営業車両のガソリン代 → 原価性なし(単なる費用)
この場合、前者は「原価」となりますが、後者は原価性のない単なる費用となります。同じガソリン代でも業種によって「原価性」の有無が異なるのです。こう言われると、どう区別をしていいかわからなくなりますよね。
迷ったときの判断基準
先の例で言えば、商品の仕入代金も材木費もエンジニアへの報酬も、また運送業者のガソリン代も、売上が発生しなければ支払う必要のない支出です。他方で製造業者のガソリン代は、何らかの売上を得るため(潜在的には)必要な費用かもしれませんが、ある特定の売上がなかったとしたときに不要になる性質の費用ではありません。
上記の判断基準は、私が原価性の有無を判断するときに用いている(独自の)考え方です。もしかしたら、この基準では判断に窮するものがあるかもしれません。ですが、原価計算に含めるべき支出かどうか迷ったときの拠り所にはなると思いますので、困ったときはぜひご利用ください。
元国税調査官の視点
原価計算の適否は税務調査において必ずチェックされるポイントです。架空の仕入や外注費を除けば、調査官が見るのは①法人が当期の費用として計上しているものが、本来原価計算の対象となるべきものかどうか、②原価計算の対象となるべき費用について、その対応する売上が当期の売上か翌期以降の売上かという点です。
①はまさにこの記事でお話した原価性の判断の問題です。②は少しわかりにくいかもしれませんが、原価に対応する売上が当期に計上されていれば、仮にその売上に係る原価性のある費用の一部が原価計算の対象とならず一時に費用計上されていても、結果所得計算に影響がないためです。
まとめると、調査官は翌期以降の売上に対応すべき原価性のある費用が、当期に費用計上されていないかを確認します。それでは、調査官がどのように調査を展開するか、一例をご紹介します。
原価管理されていない費用の抽出
調査官が原価性のある費用の処理の適否を検討するにあたっては、販売費及び一般管理費(販管費)という項目に計上されている費用を検討するのが手っ取り早いです。この項目は通常一時の損金となる費用が入るので、ここに原価性のある費用が混じっていれば、その中に翌期以降の売上に対応するものがあるかもしれないからです。売上に明らかに対応する外注費や原材料費などが販管費に計上されていれば、まず間違いなく損金算入時期の適否を確認されます。
混在しやすい例をあげると、受注に要した仲介手数料や紹介料など、1つの売上に直接紐づくものの、手数料といった名目から販管費に計上してしまっているケース。1つの売上案件について特殊な設備や重機が必要といった場合に、その設備や重機をリースした際のリース料など。その他、1つの取引先に対する支払いの中に、販管費にあたるものと原価性のあるものとが混在しているケースでは区分誤りが起きやすいです。
調査官は請求書などの取引書類を確認し、特定の売上に紐つくような費用があれば原価性のあるものと判断し、対応する売上が当期のものか翌期以降のものかを検討します。会社としては、特定の売上に紐つくような支払いは個別管理し、その売上が計上されるまでは費用化しないという取扱いの徹底が必要です。
原価計算の対象となる人件費について
製造業において製造工程に携わる従業員や、建設業において工事現場で作業する従業員について発生する給与・賃金、法定福利費などの人件費は、それぞれ製造原価や工事原価に含まれ、原価計算の対象にすべき費用です。このような人件費の難しいところは、期末の製品在庫や期末未成工事に配分すべき人件費の算出に手間がかかるところです。中小企業ではそもそも人件費を原価計算の対象としていなかったり、形式的には原価計算に含めていても期末在庫や未成工事への配分を怠っていて、結果として損益計算上は原価計算の対象としていないのと同じになっているケースが多々あります。
この点について税務調査で指摘されるかどうかは、(あまりいいことではないですが)担当する調査官しだいという側面があります。調査官としても人件費配賦が全くされていなければ指摘自体はしやすいのですが、いざ修正申告を求めようと金額を算定するにあたり、どのように算出すればいいかに悩むことが多いからです(税務署内の決裁もあるので適当な算定方法は認められません)。このような事情から、調査官のやる気や資質に左右されるところがあるのです。
ただ、何もしないのはリスクですので、最低限やっておくべきことは、対象となる従業員の人件費について何らかの配分方法を決め、それを毎期継続適用して損益計算を行うことです。最適解とはいえませんが、例えば製造業であれば「期末の製品数量 ÷(期首の製品在庫+1年間の製造数量)× 1年間の対象人件費」を期末在庫に配賦する、建設業であれば「期末未成工事の見込み売上 ÷(1年間の工事売上+期末未成工事の見込み売上)× 1年間の対象人件費」を未成工事に配賦する、といった方法が考えられます。
何もしていないと調査官も指摘しやすいですが、「会社としてできる限りのことはしていますよ」という姿勢を見せることで、指摘を免れることもあるのです。
まとめ
今回は原価計算の対象となる費用とはどんなものなのかという観点から解説しました。また、これも原価性の判断の問題の1つなのですが、税務調査でもよく指摘されるポイントに「付随費用」の処理という論点があります。この点については、「付随費用の処理について」の記事で詳しく解説します。
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