売上原価や工事原価については、対応する売上と同時期に計上することが求められており、そのために業種に応じた様々な原価計算のルールがあることをご紹介してきました。他方で、原価計算の対象とならない費用については、原則として「発生した時」の費用として計上することができます。
※ 例外もありますので、その点は別の機会に解説します。
それでは、「発生した」といえるタイミング、すなわち税務上の計上時期はいつなのか。ここが論点となってきますのでご説明いたします。
法人税法上の規定
法人税法上、費用の計上については以下のような規定があります。
内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 (省略、原価に関する規定のため)
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 (省略、損失に関する規定のため)
償却費以外の費用については、事業年度末までに債務が確定していれば、損金=費用に計上できるということになります。
なお、ここにいう償却費というのは減価償却費などのことをいいます。この点はまた別の機会にご説明します。
「債務の確定」とは何か——債務確定基準
ここでの要点は「債務の確定」とは何を意味するのかということです。費用の計上時期を判断する基準として「債務確定基準」などと呼ばれるのですが、国税庁が出している通達上では、以下の要件を満たした時点が「債務の確定」する時期だと示されています。
法第22条第3項第2号《損金の額に算入される販売費等》の償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、別に定めるものを除き、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。
- 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
- 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
- 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。
1つずつご説明いたします。
要件① 債務が成立していること
「債務が成立していること」とは、費用を支払う義務が存在すること、簡単にいえば契約が成立していることを指します。
日本の民法は諾成契約といって、基本的には当事者が口頭で約束するだけで契約が成立するルールとなっています。ですので、費用の支払いの基礎となる約束を交わした時点でこの要件は満たされるため、実務においてこの要件が争われることはまずありません。
要件② 具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
これは典型的には、費用を支払う債務に対応する契約相手方の反対債務が履行されていることを指します。
A社が事務所の清掃を業者(契約相手方)に依頼したとします。このとき、A社の支払うべき清掃代金が「費用を支払う債務」に、業者の清掃作業が「契約相手方の反対債務」に当たります。業者の清掃作業という債務が履行されなければ、「具体的な給付をすべき原因となる事実」はまだ発生していないことになります。
この要件は、実務において争われることの多い点です。税務調査においては、会社が計上した費用について「具体的な給付をすべき原因となる事実」が発生しているか否かを追求します。ですので、特に期末間近に計上する多額の費用については、期末までに契約相手方の債務の履行が完了しているかを、契約内容などを勘案し判断しなければなりません。
契約書の日付が期末前である、期末前に見積書を受領している、前金を支払っている——こうした理由で費用計上していると、債務の履行が完了していないとして指摘を受けることとなります。
要件③ 金額を合理的に算定できるものであること
当たり前の話ですが、金額が算定できないと費用の計上ができないからです。
ここでの要点は、合理的に算定ができれば、金額が確定していなくても費用計上できるということです。取引の内容によっては、契約上の債務が履行されていても、支払うべき金額が確定しないということはよくあります。
- 支払額が変動する原料価格に応じて決まる場合
- 不可抗力による追加作業が生じたような場合に、金額を別途協議するといった契約条項がある場合
- 慣習的に事後協議で支払額を定めているケース
このような場合には、見積書の金額や過去の取引実績などから金額を合理的に算定し、費用計上を行うこととなります。
ここで注意すべきは、金額の算定に合理性がなければ費用計上できないということです。通達が「合理的に」という制限をかけているのは、恣意的な金額の算定を認めると利益操作がいくらでもできてしまうからです。
したがって、税務調査においては、見積り計上された費用の算定根拠を追求します。そこに合理性がなければ修正対象となるのです。会社としては、見積り計上した費用については、その算定の合理性を示せるように準備をしておく必要があります。恣意的な利益操作と認定されると、重加算税という重いペナルティの対象となる可能性もあるため注意が必要です。
元国税調査官の視点
税務調査の現場において費用の計上時期が問題となる場合、そのほとんどが上記要件のうち2つ目の要件「具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること」を満たしているかどうかです。
期末までに明らかに納品がされていない、発注した工事や作業が完了していないようなケースでは、納税者サイドも修正に応じざるを得ませんが、調査の現場では微妙なケースも多々ありました。今回はそのような微妙なケースで、調査官の指摘を免れるためのポイントをご紹介したいと思います。
調査官の第一の関心事
まず、計上された費用についての調査官の第一の関心ごとは、その費用の支出に実体があるのかどうかです。すなわち、実は費用の計上は架空のもので、会社から出ていったお金が代表者やその親族に流れているのではないか、もしくは何らかの不正資金(裏金や賄賂など)に流用されているのではないかという観点で調査を展開します。
しかし、実際にそのようなケースは稀で、多くはその費用の計上時期が正しいかどうかという問題に帰着し、上記の要件が満たされているかどうかが検討されるのです。
争いが生じる「微妙なケース」とは
それでは、調査官と納税者との間で費用の計上時期について争いが生じる、判断の微妙なケースとはどのようなものでしょうか。多くは次のようなケースと考えられます。
納税者にとっては支払いに係る契約内容の大部分の履行を受けており、支払いも済んでいる又は支払うことを請求されている状態であるが、税務調査官の観点から見ると契約内容の全てが履行されたとは認定できないケース
抽象的な表現となってしまいますが、訴訟にまでもつれるかどうかは別にして、調査官の指摘に対し納税者が納得できず争われるケースを見ると、取引が以上のような状態にあることが多いように思えます。
なぜこのような見解の相違が生じるのか。それは端的に、調査官が「具体的な給付をすべき原因となる事実が発生している」か否かを判断するにあたり、契約における債務の全てが完全に履行されていなければならないという前提で調査を行うからだと考えられます。
これは、ある意味で正しい解釈かもしれませんが、現実の取引の実情に合っているかというと、そうでない側面があります。ここに納税者サイドが反論し得る余地があります。
現実の取引では、納品やサービスの提供が済んだ後に、アフターサービスであったり、保守の一環としての納品後点検やメンテナンスなどがあることが多々ありますし、建設工事などであれば若干の補修が入ることも日常茶飯事です。
このようなアフターサービスやメンテナンスなどが、本体の契約とは別個のサービスと契約内で明確に位置付けられていない場合に、調査官はこれらを本体の契約債務の一内容と認定し、期末後にアフターサービスやメンテナンスのようなサービスが行われていることを理由に、「具体的な給付をすべき原因となる事実が発生して」いないと主張することがあるのです。
反論の武器——「同時履行の抗弁」からのアプローチ
それでは、このような調査官の主張に対して、どのように反論を展開すべきでしょうか。
アフターサービスやメンテナンスなどの内容が本体契約とは別個のものと明確に謳われていない場合に、納税者が「本体契約に係る債務はすべて完了している」と主張しても、調査官の主張と平行線をたどることが予想されます。
そこで視点を変えた主張を展開します。つまり、期末時点の状況で、
- 取引相手に支払った代金を返還してもらえる可能性があるか
- 支払い請求を受けている代金について、債務未履行として支払いを拒絶できる状況にあるか
という観点から、そのような状況ではないことを調査官に分かってもらうのです。
これは民法上の考え方で、相手方の債務の履行(例えば発注した建設業者の工事の施工)が完了しなければ、代金の支払いを拒絶できるというものです。
ここで先に展開した主張に立ち戻ります。期末時点で「支払った代金の返還を請求し得ない」「支払うよう請求されている代金の支払いを拒絶できない」状況ということは、逆にいえばすでに契約相手方の債務の履行が完了しているということです。
相手方の債務の履行の完了=「当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生」している状況なので、この主張が通れば、必然的に債務確定の要件が満たされていることを意味します。
近年のように様々なサービスが複合的に重なり合い取引が成立するような契約形態が取られていると、履行完了のタイミングの判定も難しくなります。そのような場合の主張の展開方法として、以上のように「こちらの支払い義務の状況」という観点から履行の完了を裏付けるという発想があることを覚えておくと、税務調査官との見解の相違が生じた場合の有用な反論ツールとなります。
まとめ
原価計算の対象とならない費用は、事業年度末までに「債務が確定」していれば損金に算入できます。その判断基準が債務確定基準であり、①債務の成立、②具体的な給付をすべき原因となる事実の発生、③金額の合理的な算定、という3要件をすべて満たす必要があります。
実務で争点となるのはほぼ②です。契約書の日付や前金の支払いだけでは足りず、期末までに相手方の債務の履行が完了しているかがポイントになります。
アフターサービスやメンテナンスの存在を理由に履行未完了と指摘された場合は、「期末時点で代金の返還請求や支払拒絶ができない状況にある」という角度からの反論が有効な武器になります。
少し長くなりましたが、以上が費用計上のルールと調査官視点での実務解説となります。ただ、冒頭にも述べましたが、例外となるルールもありますので、順次解説していきたいと思います。
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