「期末棚卸の実務について(小売業・卸売業編)」では、小売業や卸売業にとって大切な期末棚卸手続きについて解説しました。今回のテーマである製造業においても同様に、製造した製品の在庫評価が必要となるのですが、自社で製造したモノが在庫となる点で性質が異なるため、別のテーマとして扱うこととしました。
製造業の原価計算の流れ
少々複雑になりますが、まず製造業者の原価の計算式を見てみましょう。
① 材料費の計算
期首材料棚卸高 + 当期材料仕入高 - 期末材料棚卸高
= 当期材料費
※ 期末材料棚卸高は在庫扱いとなる原材料なので、「原材料」として資産計上し、翌期の期首材料棚卸高として次期以後の材料費となります。
② 労務費の計算
当期に発生した製造担当社員の人件費です。
③ 製造経費の計算
外注費、製造設備に要する燃料費やメンテナンス費用などが該当します。
④ 製造原価計算
期首仕掛品棚卸高 + ① + ② + ③ - 期末仕掛品棚卸高
= 当期製造原価
※ 仕掛品とは完成製品にまで至らないものをいいます。期末仕掛品棚卸高の算出のため、本当は①〜③の費用について期末仕掛品に要した部分を抽出する必要があるのですが、複雑なのでまた別の機会に解説します。
⑤ 売上原価計算
期首製品棚卸高 + 当期製造原価 - 期末製品棚卸高
= 売上原価
計算プロセスが多く複雑に見えますが、⑤については完成後の製品について、テーマ2-③でお話しした小売業の売上原価計算と同じことをしているだけです。
①〜④については、材料費や工賃、製造諸経費を支出することで仕掛品や半製品となり、その後完成品になるものと、仕掛品や半製品のまま決算期末を迎えるものがあるという製品製造の過程をイメージしてもらえれば、理解しやすいのではないでしょうか。
製造業の期末棚卸が複雑になる理由
ここまでは、製造業の原価計算について少し踏み込んでお話ししました。今回のテーマは期末棚卸の実務ですので、ここからは製造業の棚卸実務についてお話しします。
製造業における期末棚卸手続きですが、基本的には小売業と変わりません。決算期末時点の製品の実数を実地で確認し、これに単価をかけるのです。ただ、以下の点で小売業の棚卸手続きと比較して複雑な部分があります。
- 仕掛品・半製品と完成製品との区分管理が必要
- 仕損じ品や不良在庫の除去が必要
- 完成製品だけでなく、原材料や仕掛品・半製品の棚卸も必要
- 最終仕入原価法を採用する場合に、段階的な製造工程を経るため直近の製品単価を把握しづらい
- 算定すべき単価が製品、仕掛品、原材料など多岐にわたる
以上のように、製造業の期末棚卸手続きは、税務上の原則的かつ簡易な評価方法である最終仕入原価法を採用したとしても、かえって複雑な計算を余儀なくされる場合があります。続いては、調査の現場での経験をもとに、製造業における期末棚卸の現実的な対応を見ていきたいと思います。
元国税調査官の視点
大切なのは「合理性」と「継続性」
これまで製造業を営む会社への税務調査も数多く経験しましたが、厳密に最終仕入原価法やその他法定の評価方法をきっちり採用して計算している会社は少ないのが実態です。
実務において大切なのは、その会社の規模や業種、取引内容などを総合的にみて合理的と考えられる棚卸の方法を採用し、それを毎期継続的に行うことです。
例えば、評価方法の届出をせずに、原材料には最終仕入原価法を採用しつつ、仕掛品の評価には前年の平均製造単価に製造工程に応じた進捗率を乗じる方法を採用したり、最終製品には売価還元法を採用したりと、形式的には税法に反した評価を行っているケースでも、それが会社にとって合理的であり継続適用がなされていれば、税務調査で問題となることは少ないといえます。
ここには、合理性と継続性があれば無理に原則的な評価方法に引き直す必要性はないとする調査官の経済合理的な判断がある場合のほか、調査官の能力の問題で法人の採用している評価方法が合理的か否かが判別できない場合や、調査結果としての正しい評価数値の提示を行う自信がない場合といった消極的な理由も含まれます。
実は法人サイドに分がある論点
当然のことながら、法人の営む事業内容については、代表者を含めた法人サイドの人間の方が調査官よりも精通しています。税務上の取扱いをよく知っていても、業態によって千差万別である製造業における原価計算・棚卸手続に関して「合理性」という尺度で評価しなければならないとなると、実は分があるのは法人サイドであったりするのです。
したがって、税務調査への対策としては、採用している評価方法の根拠となる資料と、それが法人の営む事業内容にてらして合理的であることを説明する準備をしておくことです。
気をつけるべきは「運用の矛盾」
気を付けるべき点は、合理的であると主張する評価方法の具体的な運用実態を見たときに、明らかな矛盾要素がないようにすることです。例えば次のような矛盾があると、評価方法自体は認められても否認の対象となりえます。
否認につながる「運用の矛盾」の例
- 評価指標の算出根拠として工場作業員の勤務時間を基礎としているにもかかわらず、母数に一部の事務作業員の勤務時間も含まれている
- 上半期の実績を基礎に仕掛品評価の進捗率を算出することとしているにもかかわらず、抽出した数値が特定月のみとなっている
- 一定割合を製品や仕掛品に配賦すべき製造経費について、一部の費目が抽出されていない
評価方法が合理的であると説明できれば抜本的な修正は避けられますが、実際の運用に穴があると、結果的に調査官へ否認項目を発見するアシストをすることとなってしまいます。評価方法が合理的であると証明した反面、その方法に沿わない運用があると納税者サイドとしては言い訳がつきませんので、実際の運用が採用した評価方法に沿ったものであるかの点検も重要です。
採用しようとする評価方法が税務的に合理的といえるのかどうか、運用が評価方法に沿ったものとなっているかどうか、どのような資料や説明を準備しておけばいいのか、判断に困ったときは税理士にご相談ください。
まとめ
製造業の原価計算は、材料費・労務費・製造経費を集計して製造原価を求め、そこから売上原価を計算するという多段階のプロセスをたどります。棚卸の対象も、完成製品だけでなく原材料・仕掛品・半製品に及ぶため、小売業に比べて複雑になります。
税務調査の実務では、原則的な評価方法に厳密に従っているかどうかよりも、その会社にとって合理的な方法を採用し、毎期継続して適用しているかが重視される傾向があります。
対策の要は、採用している評価方法の根拠資料を整え、それが自社の事業内容に照らして合理的であることを説明できるようにしておくこと。そして、実際の運用がその方法どおりに行われているかを定期的に点検することです。
元国税調査官の税理士が、貴社の原価計算・棚卸評価の方法を確認し、税務調査で説明できる状態になっているかを事前にチェックします。まずは無料相談からお気軽にご相談ください。
無料相談を予約する