期末棚卸の実務について(小売業・卸売業編)

「原価計算について」の解説の中で、原価計算のプロセスにおいて、決算期末の在庫数量を把握する必要性に触れました。今回は、在庫数量の把握方法と在庫単価の算出方法について解説し、期末棚卸の手続きの理解を深めたいと思います。

期末棚卸は原価計算の要

小売業や卸売業など、数多くの商品を取り扱う業種にとっては、この期末棚卸の手続きは原価計算の要です。1事業年度の原価の把握という意味では、期末棚卸手続きさえ正確にできれば、正しい原価計算が行えます。なぜなら、小売業や卸売業の売上原価は次のように計算されるからです。

売上原価の計算式

① 期首商品棚卸高 + ② 当期商品仕入高 - ③ 期末商品棚卸高

ここで、①期首商品棚卸高というのは前期の③期末商品棚卸高のことをいいます。②当期商品仕入高はその年の仕入の合計なので、さほど苦労なく集計できるはずです。

ポイント
③期末商品棚卸高さえ計算できれば、
原価計算はほぼ完了

③期末商品棚卸高は、決算期末の在庫数量に単価をかけて算出しますので、まずは「在庫数量の把握」と「単価の計算」についての原則的なやり方を解説します。

STEP 1|在庫数量の把握方法

在庫数量を把握する方法には、次の2つがあります。

📒 帳簿棚卸

日々商品の受け払いを記録している帳簿を頼りに把握する方法。期中に発生した通常の売買以外の原因による在庫の増減(不良品対応、破損、紛失、盗難等)が把握できない可能性がある。

✅ 実地棚卸(原則)

実際に数量を数えて把握する方法。税務上はこちらが原則として求められます。要するに、目で見て数えて実数をカウントしてください、ということです。

STEP 2|在庫単価の計算方法

単価の計算については、税務上多くの計算方法が認められています。先入先出法、移動平均法、売価還元法などなど……(これらの詳細はまた別の機会に)。

聞くだけで嫌気が差すと思うので、これらの詳細な解説は今回省きますが、税務上は「最終仕入原価法」というのが原則的な計算方法とされています。

最終仕入原価法とは——
1事業年度の1番最後に仕入れた時の商品単価を使って在庫の評価をする、という簡単なものです。要するに、決算期末に実地で数えた商品数に、直近で仕入れた際の単価をかければ期末棚卸高が計算できます。
📦 計算例
商品 期末在庫数(実地) 直近仕入単価
商品A 50個 5,000円
商品B 100個 8,000円

50 × 5,000 + 100 × 8,000
= 期末商品棚卸高 1,050,000円

こんな具合です。基本的に、取り扱う商品の価格変動がさほど大きくなければ、この方法を採用しておけば問題ありません。いかがでしょう、さほど難しい印象は受けないのではないでしょうか。

簡単に把握できないケースもある

しかし、業種や業態によっては簡単に在庫数量や単価を把握できなかったり、上記のような計算では在庫の評価額に異常値が生じてしまうようなケースもあります。

そういったケースでは、正確な業績の把握を目的とした在庫評価と、税務上の在庫評価とを切り分けて管理することも必要となってくる場合があります。少し複雑な知識も必要となるので、税理士に相談するのもいいでしょう。

元国税調査官の視点

原価計算の適否を検討するという観点からは、日々大量の商品を仕入れて販売する小売業や卸売業においては、意図的な架空の仕入れなどを除けば、期中の仕入取引そのものに税務上の誤りが生じることは少なく、期末在庫の評価が一番の調査ポイントとなります。ここでは、税務調査で指摘の多いポイントを紹介しつつ、現場の調査官の視点を交えながら解説したいと思います。

実地棚卸の適否について

小売業や卸売業の期末の棚卸において最も重要なのは、期末時点の商品数量を正しく把握することです。帳簿上の受け払い数量と実際の数量が大きく乖離することは稀かもしれませんが、帳簿の数字だけに頼るのは盗難や横領などの経営リスクの把握という観点からも問題がありますし、実地棚卸をしていないというだけで調査官からは「この会社の在庫管理は杜撰だ」という印象を持たれてしまいます。したがって実地棚卸は最低でも年1回、可能ならば半年、四半期など定期的に行うことが望ましいです。

それでは、実際に棚卸の計上漏れとして指摘されやすいケースを紹介します。

① 倉庫など保管場所が分散しているケース

本社に全ての在庫があれば管理も楽ですが、物量が増えてくると倉庫を借りるなど対応が必要です。商品の受け払いや在庫管理まで請け負ってくれる委託倉庫を利用できれば管理の手間が省けますが、大きなコストがかかります。

保管場所が分散していると棚卸の把握漏れが起きやすくなります。対策としては、棚卸に関する社内のルールを統一し、各現場の担当者に棚卸手続きの重要性をしっかりと理解させることが大切です。ルールが統一されておらず、担当者の認識不足が露呈すると調査官の疑念は深まります。

もっとも、調査官の立場も簡単ではありません。期末の在庫数量というのは過去の話であり、それが帳簿上の数量と異なることを解明することは困難な場合も多いのです。そこで調査官は、例えば期末近辺の大口の仕入を抽出し、その仕入れた商品のうち期末までに販売済みの数量を証明できる資料を提示するよう求めてきます。こうして未販売の数量(間違いなく期末在庫となっている数量)を把握して、それが期末棚卸の中に含まれているかを検討するのです。

会社としては、特に調査官の目に留まりやすい期末の大口仕入れや、動きを追いやすい回転率の悪い商品については、仕入 → 販売 → 在庫数量の説明を明瞭にできるよう資料を整えておくことが大切です。

② 預け在庫があるケース

販売委託先や協力企業に在庫の一部を預けているようなケースもあります。このような預け在庫は計上が漏れる可能性の高い典型例です。自社の在庫という認識が薄れるのか、預け在庫の計上が丸々抜けているといった事例も見てきました。

⚠️

このケースで注意が必要なのは、預け在庫の計上が丸々抜けている場合においては、意図的な棚卸の除外という認定がなされ、重加算税の対象となるリスクがあることです。

多忙な会社代表者からすれば、自社在庫という認識が欠けてしまうことは自然かもしれません。しかし、調査官からすると、預け先との間で何らかのやり取りをしている事績があれば、自社在庫の存在を認識した上で棚卸計上をしなかったと考えるのです。

国税庁が出している事務運営指針においても、帳簿書類の作成や帳簿書類への記録をせずに売上げその他の収入を脱漏したり、棚卸資産を除外したりしていることが、重加算税の対象であると明記されています。

預け在庫の計上が丸々抜けているケースは、客観的にはこの要件を満たしてしまうため、非常にリスクの高い状態なのです。会社側の反論としては、在庫という認識がなかった(意図的ではなかった)というものになりますが、これを調査官が納得する程度に証明することは骨の折れる作業です。

対策といっても、そもそも在庫という認識を欠いているケースなので難しいところがあります。優秀な税理士がついていれば、普段の取引状況から預け在庫の存在を把握し的確な助言をしてくれるかもしれません。万が一税務調査で指摘され、重加算税の対象となるかもしれない段階に至った際は、調査実務に精通している税理士に対応を依頼した方がいい場合もあります。

評価単価の適否について

期末棚卸手続きにおいて、在庫数量の把握と同じく重要なのは単価の問題です。

法人税法上の原則的評価方法である、期末直近の仕入単価を用いる最終仕入原価法を適用していれば、単価の問題について指摘されることはほぼないといってもいいのですが、調査の現場では会社それぞれの事情もあり、単純に思える単価の計算も否認の対象となるケースがあります。いかなる場合に計算誤りが生じやすいか見ていきましょう。

① 取り扱う商品が多いケース

小売業や卸売業で取り扱う品数が多い場合、すべての商品について直近の単価を把握することに相当の苦労を費やす場合があります。個々の仕入単価を把握しなくてよく、商品グループごとの原価率を利用して評価を行う売価還元法を届出て採用する手もありますが、この評価方法も原価率の適正な算定が難しい場合が多く、あまりおすすめできません。

システム化が進んでリアルタイムでの仕入単価が把握できればいいですが、中小企業の場合そこまでの設備導入が難しいことも多いですので、今回は調査において指摘を受けてもダメージを最小限にするためのポイントをお話します。

ポイントといっても単純です。扱う商品のうち単価の大きいものについては、毎期末に必ず単価の見直しを行うことをルール化することをおすすめします。会社の扱う商品全体とのバランスと実情を踏まえ、例えば単価がいくら以上のものは見直しの対象とするなど決めておきます。

調査官も単価の適否を検討するときには、必然的に単価の大きなものを重点的に調べます。例えば単価が数百円のものを調べたところで、誤りがあったとしても数十円の相違でしょうから、期末に1,000個の在庫があったとしても修正金額は数万円にとどまります。調査官もコスパを考えて調査を進めますので、その点を逆算して調査で検討されそうな価格帯のところだけ毎年見直しをするというのは、税務リスクを抑えつつ限られた経営資源を必要なところに投下できるという意味で、経営上合理的な選択肢ではあるのです。

② 価格変動が大きい商品のケース

金や白金など貴金属の時価変動、レアメタルや鋼材などの市況に大きく左右される商品の場合、1事業年度の間に仕入単価が1.5倍〜2倍に跳ね上がるといったケースもあります。仕入れ値の大幅な変動があれば売値にも当然反映させる必要があるため、期末近辺に仕入れたものについては仕入時の単価で正しく評価されると考えられますが、通常の経営感覚からすると、過去に仕入れた同じ商品まで評価単価を改定するという発想にはなりません。

現に最終仕入原価法を採用して原価計算をすると、物価上昇による見かけ上の利益が計上されることとなり、歪な決算となることもあります。ただ、価格変動が大きい分、税務調査で指摘があった場合の修正金額への影響も大きいのと、このような市況の変化を受ける業種については、市況の大きな変化があったタイミングで税務調査の対象に選ばれやすい傾向もありますので注意が必要です。

対応としては、まず価格の下落局面では、いくら追求しても所得の増加に繋がらないため、調査官は単価の適否について興味を持ちません。このような市況が続いている限り、あまり気に留めなくてもいいでしょう。気をつけるべきは価格の上昇時ですので、価格変動の大きな商品はあらかじめ顧問税理士と情報共有し、仕入れ値のフォローを要する対象として個別管理するのがいいかもしれません。優秀な税理士であれば市場環境にもアンテナを張っていますので、適宜適切なアドバイスをくれるはずです。

まとめ

✅ まとめ

小売業・卸売業の期末棚卸は、①実地で在庫数量を数え、②直近の仕入単価をかける(最終仕入原価法)のが原則です。この期末商品棚卸高さえ正確に計算できれば、売上原価の計算はほぼ完了します。

税務調査では、保管場所が分散しているケースや預け在庫のケースでの計上漏れ、単価の大きい商品の評価誤りが指摘されやすいポイントです。特に預け在庫の計上漏れは重加算税のリスクもあるため、日頃からの管理体制の整備が重要です。

濱名柾明
税理士 濱名柾明
元東京国税局職員(13年・税務調査実績200件超)

東京国税局にて13年間、法人・個人事業者の税務調査に従事。調査官として現場で見てきた実態をもとに、経営者にとって本当に役立つ税務情報を発信している。現在は濱名税理士事務所にて税理士として、税務顧問・税務調査対応・相続税申告等を中心に業務を行う。

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