原価計算について

いかなる費用が原価に含まれるかは営む事業内容によって異なりますが、原価を端的に言い表すなら、売上を得るために直接必要な費用ということになります。

 そもそもどんな費用が「原価」に含まれるかの判断も迷うポイントです。詳しくはテーマ2-②「原価性の判断について」を参照してください。

原価をいつ計上するかという問題も、第1回のテーマ「売上の計上について」と同じく、税務調査でよく問題になるポイントです。

原価の計上時期の判断ポイント

キーワード
対応する売上と同じ時期に計上する

例えば、小売業者の仕入れた商品が売れ残っている状態では、その商品の仕入代金は原価として計上できません。同じように、建設業者の工事が未了で建設物の引渡しが済んでいなければ、工事にかかった材料費や労務費、外注費などは原価計上できません。

会社の決算期末時点で、すべての商品が売れて在庫がない、あるいは仕掛り中の工事や作業がないのであれば(売上もすべて上がっているので)、発生した原価をすべて計上してしまって構いません。しかし、なかなかそうもいきませんよね?

日々さまざまな仕入れや費用が発生する中で、仕入れた商品が決算期末までに売れるか、発生した費用に係る仕事が決算期末までに終わるのか、その時点で予測するのは困難な場合もあります。

そこで、会社の営む事業内容に応じて、次のように原価の管理と計算を行っていきます(やり方は多種多様ですが、ここでは大枠を説明します)。

業種ごとの原価管理・計算の考え方

小売業・卸売業など

  1. 決算期末に残っている商品、製品の在庫数量を数える
  2. ①に商品、製品の単価をかける
  3. ②で算出された金額を「期末商品(製品)棚卸高」という勘定科目を用いて原価から差し引く
ここで、①の在庫数量をどのように数えるか、②の単価をどう算出するかが問題となりますが、その点は別の機会に解説します(テーマ2-③「期末棚卸の実務について」参照)。

建設業

日々発生する費用(材料費、労務費、経費、外注費など)が、どの工事にかかったものかが後から分かるような管理をします。

小規模な会社なら、請求書などを工事ごとに分けて管理し、後でまとめて経理処理するなどの対応でも十分かもしれません。規模が大きくなってくると、経理処理と同時に工事台帳を作成するなどの対応が必要です。

  • 決算期末で完成していない工事について、上記で管理・集計した費用を「未成工事支出金」という勘定科目を用いて原価から差し引く
  • もしくは、発生した費用をいったんすべて「未成工事支出金」に計上し、決算期末までに完成した工事について、上記で管理・集計した費用を「未成工事支出金」から原価に振り替える

その他、仕掛業務が発生する業種(ソフトウェア開発、映像制作など)

基本的には建設業と同様です。「工事」を「受注した案件」、「未成工事支出金」を「仕掛品等」と読み替え、同じような管理と計算を行います。

製造業

製造業については、少し複雑な原価計算が必要です。製品完成までの過程では建設業のような原価計算を行い、製品完成後は小売業と同様の在庫管理と計算を行うこととなります。

元国税調査官の視点

法人の税務調査では、売上とともに原価計算の適否は必ず検討される項目です。どんな費用が原価計算の対象となるかという原価性の判断や、棚卸手続きに関する事項は該当の記事でお話ししますので、ここでは調査官が原価計算の適否をどのように調査していくかについて解説します。

なお、あくまで私の経験則に基づく解説ですので、すべての税務調査にあてはまるものではないことにご留意ください。

まず、調査官は法人の原価計算が正しく行われているかどうかを、その法人の原価管理の状況を見て感覚的に判断するものです。

例えば小売業や卸売業のような業種では、商品の受け払いを法人がどのように管理しているかを聴取します。もし商品の受発注と在庫管理と会計処理とがシステム連動しているならば、システムから出力される在庫の数値は間違いがないと推測し、数量の誤りがあるとすれば仕入や販売以外の要因(盗難や損壊など)に限られるだろう、ミスがあるとすれば従業員が手入力する商品単価のところくらいだろうか、などとあたりをつけて調査をします。

逆に、そのようなシステマティックな管理がされていなかったり、倉庫を確認したところ商品の保管状況がずさんだったりすると、調査官はその法人の原価計算は正しくないだろうという印象を持った上で積極的に調査を展開していきます。ですので、まず第一に、調査官に対して「この法人の原価計算は正しくされていそうだ」という印象を持たせることが大切です。

※倉庫や金庫、社長室のデスクなど業務に使用するものを実際に確認する調査を、現物確認調査といいます。

小売業や卸売業の場合、前述のようなシステム化が難しくても、整然とした商品の受払簿があり、定期的に実地棚卸が行われた記録などがあれば印象は悪くないと思います。

建設業ならば工事台帳を作成し、案件ごとに損益管理をしていれば十分いい印象を与えられます。経験上、税務署管轄の中小建設業の調査において原価管理に関する質問をすると、工事台帳など作らずすべて社長の頭の中で管理しているという回答が多くを占めました。

また、印象という意味では現金払いでの仕入れや外注費の支払いはいい印象を与えません。最近はかなり減ってきたものの、業界の慣行や取引先の事情もあるので、すべてを信用決済にすることは難しいでしょう。取引の現場にいる方からすれば何が問題かと思われるでしょうが、調査官は現金払いの仕入や外注=架空の取引ではないかという疑いで調査を展開します。

現金払いの取引先について、調査官は必ずその取引先の申告状況を確認します。万が一申告が確認できない場合、その取引は架空のもので法人の代表者にお金が戻ってきているのではないかとの疑念を深めます。

取引先が申告をしているかどうかという、法人サイドではどうしようもない事情で調査が長引くこともあります。支払う側からすれば現金払いか銀行振込かでお金が出ていくことに変わりはありませんが、お金が動いた事績と相手方のはっきりわかる銀行振込であれば、仮に相手方の申告がなくても調査官の印象はかなり良くなります。

様々な事情があるとは思いますが、可能な限り銀行振込での決済をすることが、単純ではありますが大きな調査対策になるのです。

まとめ

✅ まとめ

正しい原価計算と売上の計上(第1回のテーマ「売上の計上について」参照)を行うことで、会社の正しい業績が把握できます。例えば、事業年度間、受注案件間の利益率の乖離を分析することで、利益を圧縮している要因を解明でき、今後の経営戦略に活かすこともできます。

また、売上と原価の計算は決算の要でもあるので、この計算の信頼性は銀行融資の審査にあたっても重要視されます。

当然、売上の計上と同様、誤りがあれば税務調査で指摘され、不要な税務コストが発生する可能性もあります。

正確な原価の計算には専門的な判断が必要な場合もあります。困ったときは税理士等の専門家に相談するのもいいでしょう。

濱名柾明
税理士 濱名柾明
元東京国税局職員(13年・税務調査実績200件超)

東京国税局にて13年間、法人・個人事業者の税務調査に従事。調査官として現場で見てきた実態をもとに、経営者にとって本当に役立つ税務情報を発信している。現在は濱名税理士事務所にて税理士として、税務顧問・税務調査対応・相続税申告等を中心に業務を行う。

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