「売上の計上について」では、売上の計上時期の原則として権利確定基準を解説しました。今回は、取引の種類・性質によってその原則に対する特殊な例外基準が存在することを、最新の法令・通達(令和7年度税制改正対応)に基づいて解説します。
- ①工事進行基準(法人税法第63条・第64条)
- ②延払基準令和7年度改正により廃止経過措置あり
- ③管理支配基準(法基通2-1-2 等)
- ④その他の特殊基準(委託販売・検針日・部分完成・技術役務)
- ⑤収益認識会計基準との関係(平成30年度改正・法22条の2)
① 工事進行基準(法人税法第63条・第64条)
工事進行基準とは、工事の完成・引渡しを待たずに、各事業年度の進捗度に応じて収益・費用を分割計上する方法です。工事の種類によって強制適用か任意適用かが異なります。
長期大規模工事——強制適用(法第64条第1項)
以下の3要件をすべて満たす工事は「長期大規模工事」に該当し、工事進行基準が強制的に適用されます。
- ①着手の日から引渡期日までの期間が1年以上であること(法第64条第1項)
- ②請負対価の額が10億円以上であること(法令第129条第1項)
- ③請負対価の額の2分の1以上が、引渡期日から1年を経過した後に支払われるものでないこと(いわゆる「後払いが多くない」要件)(法令第129条第2項)
📐 工事進行基準の計算式(法令第129条第3・4項)
進行割合 = 工事着手から当期末までに発生した工事費用の累計額
÷ 工事着手から完成までに発生すると見積もられる工事費用の総額
※ 進捗度を合理的に見積もれない場合は「合理的に見積もれる部分」のみ計上可。
長期大規模工事以外の工事——任意適用(法第63条第2項)
長期大規模工事以外については、工事進行基準と工事完成基準を法人が任意に選択できます。ただし継続適用が条件です。
着工事業年度から工事進行基準を採用した場合、以後の事業年度も継続適用が必要です。一度でも中断すると、その翌事業年度以降は工事進行基準を適用できなくなります(法63条2項ただし書)。
工事進行基準に関する主要通達(令和7年改正対応)
| 通達番号 | 内容 |
|---|---|
| 法基通2-4-1 | 設計・監理等の役務提供が工事に含まれる場合、一体として工事の請負に含まれる |
| 法基通2-4-2 | 「契約」とは当事者間の合意をいい、契約書の作成の有無を問わない |
| 法基通2-4-3 | 長期大規模工事の判定は契約ごとに行うが、実質的に一の工事とみられる複数の契約は全体を一の契約として判定 |
| 法基通2-4-6 | 工事着手の日(「重要な部分の作業」を開始した日)は、工事の種類・性質・慣行等に応じ合理的と認められる日を継続適用 |
| 法基通2-4-8 | 進行割合の算定には法基通2-1-21の6(注)2を準用 |
| 法基通2-4-9 | 工事損失引当金相当額を計上していても「工事進行基準の方法により経理したとき」に該当しないとはされない(ただし当該額は費用算入不可) |
| 法基通2-4-10〜12 | 外貨建工事における請負対価の円換算・為替差損益の取扱い |
② 延払基準 令和7年度改正により廃止
延払基準とは、長期割賦販売等(長期の分割払い取引)について、収益・費用を代金回収期限到来日に基づいて各事業年度に分割計上する方法でした(旧法人税法第63条第1項)。
廃止の経緯
令和6年9月に企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した「新リース会計基準」(企業会計基準第34号)において、ファイナンス・リースの貸手での割賦基準が廃止されたことを受け、令和7年度税制改正(令和7年法律第13号)により延払基準の特例も廃止されました。
経過措置(改正法附則第17条) 令和7年4月1日以後開始事業年度から適用
| 経過措置の内容 | 詳細 |
|---|---|
| ①旧リース譲渡に係る延払基準の継続適用(附則17条②) | 令和7年4月1日前に「リース譲渡」を行ったことがある法人は、以後の経過措置事業年度においても引き続き延払基準を適用できる |
| ②延払基準による経理中断時の処理(附則17条③一) | 令和9年3月31日以前に開始した経過措置事業年度の決算で延払基準により経理しなかった場合、その事業年度に未計上収益額・未計上費用額を一括算入する |
| ③未算入額がある場合の処理(附則17条③二) | 令和9年3月31日以前に算入されなかった収益・費用がある場合、「基準事業年度」において一括算入する |
| ④基準事業年度以後での延払基準継続(附則17条④) | ③の場合において基準事業年度の決算で延払基準(以後は利息相当額のみを収益とする方法に限る)により経理したときは、以後も引き続き適用可能 |
③ 管理支配基準
管理支配基準とは、引渡しや役務提供がない場合でも、資産や経済的利益に対する「管理・支配」を取得した時点をもって収益計上する考え方です。権利確定基準をそのまま採用すると所得計算上の不具合が生じるケースにおいて、課税の公平を保つために適用されます。
④ その他の特殊な収益計上基準
以下は権利確定基準の例外とまではいえませんが、取引の実情に応じて通達上柔軟な取扱いが認められているものです。
委託販売の特例(法基通2-1-3)
委託販売の収益は、受託者が販売をした日に計上するのが原則です。ただし、売上計算書が売上の都度作成・送付されている場合で、継続して「売上計算書の到達した日」に計上しているときは、引渡日に近接する日として認められます(法22条の2第2項)。
検針日基準(法基通2-1-4)
ガス・水道・電気等の販売において、週・旬・月を単位とする規則的な検針に基づき料金が算定される場合で、継続して「検針が行われた日」に収益計上しているときは、引渡日に近接する日として認められます。
部分完成基準(法基通2-1-1の4)
建設工事等について以下の事実がある場合、期末までに全部が完成していなくても、引き渡した工事量または完成した部分に対応する収益を計上しなければなりません(強制適用)。
- ①一の契約により同種の建設工事等を多量に請け負い、引渡量に従い工事代金を収入する旨の特約または慣習がある場合
- ②1個の建設工事等であっても、一部が完成し、完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金を収入する旨の特約または慣習がある場合
技術役務の提供に係る収益計上(法基通2-1-1の5)
設計・作業指揮監督・技術指導等の技術サービスについて、以下の場合は区分した単位ごとに収益を計上します(部分完成基準の役務提供版)。
- ①報酬の額が派遣技術者の人数・滞在日数等により算定され、一定期間ごとに金額を確定させて支払を受ける場合
- ②報酬の額が基本設計・部分設計等の作業段階ごとに区分され、それぞれの段階の作業完了都度金額を確定させて支払を受ける場合
実務上の留意点まとめ
基準選択の固定性——継続適用が原則
- 長期大規模工事以外の工事で着工事業年度に工事進行基準を採用した場合、以後も継続適用が必要(一度でも中断すれば以後適用不可)
- 棚卸資産の引渡日の判定基準(出荷・検収・着荷等)は継続適用が原則
- 委託販売の売上計算書到達日基準も継続適用が条件
延払基準廃止への実務対応チェックリスト
- 令和7年4月1日前に行ったリース譲渡の有無を確認する
- 経過措置事業年度の確定申告書において延払基準による収益・費用を適切に計上する
- 令和9年3月31日までの経過措置期間中に延払基準を中断した場合の未計上額の一括算入処理を行う
- 基準事業年度(令和9年3月31日後最初に開始する経過措置事業年度)における移行処理の要否を検討する
申告調整の実務
- 別表四:会計上の収益と税務上の収益の差額を加算または減算
- 別表五(一):差異の累計を「繰延税効果」として管理し、翌期以降の調整に備える
- 工事進行基準(長期大規模工事)の場合:工事ごとに進捗度計算書を保管し調査対応に備える
- 延払基準の経過措置適用の場合:旧リース譲渡ごとの残高管理が必要
- 売上計上の原則「権利確定基準」に対し、工事進行基準・延払基準・管理支配基準等の特殊な例外基準が存在する
- 工事進行基準は長期大規模工事(工期1年以上・10億円以上等)に強制適用、それ以外は任意選択(継続適用が条件)
- 延払基準は令和7年度税制改正で廃止。旧リース譲渡がある法人は経過措置への対応が必要
- 平成30年度改正で新設された法22条の2により、引渡基準・近接日基準が法令上明確化された
- 会計と税務の処理が乖離する場合は申告調整(別表四・別表五)が必要。工事ごとの進捗度計算書など資料の保管も重要