繰延資産は、支出の効果が将来にわたる費用でありながら、会計上の取扱いと税務上の取扱いが一致しないという特殊な性質を持ちます。実務では区別を誤りやすく、税務調査でも支出の性質が問題になりやすい論点です。今回は繰延資産の定義から償却方法、実務上の留意点まで整理して解説します。
繰延資産とは
ポイントは、会計上の繰延資産と税務上の繰延資産は範囲が一致しないという点です。実務ではこの2つを明確に区別して処理する必要があります。
- 創立費
- 開業費
- 株式交付費
- 社債発行費(社債等発行費)
- 開発費
- 会計上の繰延資産(第1号〜第5号)
- + 第6号「自己が便益を受ける支出」(広範)
税務上の繰延資産(第6号)の具体例
- イ自己が便益を受ける公共的施設・共同的施設の設置または改良のために支出する費用(法基通8-1-3、8-1-4)
- ロ資産を賃借・使用するために支出する権利金、立退料その他の費用(法基通8-1-5)
- ハ役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
- ニ製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用(法基通8-1-8)
- ホ職業運動選手等との専属契約をするために支出する契約金等(法基通8-1-12)
- へ上記以外で自己が便益を受けるために支出する費用で、支出の効果が1年以上に及ぶもの(スキー場のゲレンデ整備費・出版権設定の対価・同業者団体の加入金等)
税務上の繰延資産(第6号)は「支出の効果が1年以上に及ぶ」ことが要件です。効果が1年未満のものは全額損金算入が認められます。
税務上の償却方法
均等償却の原則
税務上の繰延資産(第6号)は、法人税法施行令第64条第1項第2号の規定に基づき均等償却によって処理します。会計上の繰延資産(第1号〜第5号)については同項第1号が適用されます。
繰延資産の償却費は、「償却費として損金経理」した金額のうち償却限度額に達するまでの金額のみが損金算入されます(法人税法第32条第1項)。未払計上のみでは損金算入されません。ただし「償却費以外の科目」で経理していても、実質的に繰延資産の費用計上であれば損金経理として扱われます(法基通8-3-2)。
償却期間の原則(法基通8-2-1)
繰延資産となる費用の支出効果が及ぶ期間は、次のように定められています。
- 固定資産利用型固定資産を利用するために支出した繰延資産 → その固定資産の耐用年数を基礎に見積もる
- 契約型一定の契約をするに当たり支出した繰延資産 → その契約期間を基礎に見積もる
償却期間の具体例(法基通8-2-3)
| 繰延資産の種類・内容 | 償却期間 | 備考 |
|---|---|---|
| 公共的施設の設置・改良費用(専用使用できるもの) | 施設の耐用年数 × 7/10 | 道路用地提供の場合は耐用年数を15年として計算 |
| 公共的施設の設置・改良費用(一般の人も使用する施設等) | 施設の耐用年数 × 4/10 | — |
| 共同的施設の設置・改良費用(商店街アーケード等・構成員の共同用) | 5年(施設の耐用年数が5年未満ならその年数) | 商店街アーケードの標準的な処理 |
| 共同的施設の設置・改良費用(構成員の事業用・協会会館等) | 施設の耐用年数 × 7/10 | 協会の本来用途以外の負担金は寄附金扱いに注意 |
| 権利金等の区分 | 償却期間 | 要件・備考 |
|---|---|---|
| ①建物新築時の権利金で建設費の大部分に相当し、建物存続期間中賃借できるもの | 建物の耐用年数 × 7/10 | 実質的に建物取得に準じる場合 |
| ②①以外で、明渡し時に借家権として転売できるもの | 賃借後の見積残存耐用年数 × 7/10 | 借家権に財産価値がある場合 |
| ③①②以外の権利金等(最も一般的) | 5年(賃借期間5年未満で更新時支払明らかなら賃借期間) | 礼金・権利金等の通常の処理 |
| 電子計算機その他機器の賃借に伴う費用(引取運賃・据付費等) | 機器の耐用年数 × 7/10(賃借期間超なら賃借期間) | OA機器等のリース付随費用 |
| 繰延資産の種類(根拠通達) | 償却期間 | 備考 |
|---|---|---|
| ノウハウ設定契約の一時金・頭金(8-1-6) | 5年(有効期間5年未満で更新時支払明らかならその期間) | 使用開始前費用は使用開始時から償却 |
| 広告宣伝用資産の贈与・低廉譲渡費用(8-1-8) | 資産の耐用年数 × 7/10(5年超の場合は5年) | 看板・陳列棚・自動車等 |
| スキー場のゲレンデ整備費用(8-1-9) | 12年 | 土地取得に伴う費用は取得価額に算入 |
| 出版権の設定の対価(8-1-10) | 設定契約の存続期間(定めなければ3年) | — |
| 同業者団体・組合等の加入金(8-1-11) | 5年(地位喪失の可能性部分は入会〜退会見込期間) | 構成員の地位に資産価値があれば繰延資産にならない |
| 職業運動選手等の選手契約締結費用(8-1-12) | 契約期間(定めがなければ3年) | — |
上記の各償却期間に1年未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。
少額繰延資産の特例
特例の内容(法人税法施行令第134条)
法人税法施行令第14条第1項第6号に掲げる繰延資産(均等償却を行う繰延資産)で、支出金額が20万円未満のものは、支出した事業年度において損金経理した金額を全額損金算入できます。
20万円未満の判定方法(法基通8-3-8)
判定単位は支出の種類によって異なります。
- 公共的・共同的施設一の設置計画・改良計画ごとの支出金額(2回以上分割支出の場合は支出時点での見積合計額)
- 権利金等(ロ・ハ)契約ごとの支出金額
- 広告宣伝用資産(ニ)贈与対象資産の1個または1組ごとの支出金額
会計上の繰延資産(5種類)の税務処理
創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費については、法人税法施行令第64条第1項第1号により、法人が損金経理した金額(繰延資産の額が上限)を損金算入します。任意償却(支出時全額損金算入を含む)が認められており、特定事業年度に集中して償却したり、まったく償却しないという選択も可能です。
繰延資産の償却計算の具体例
【期中支出】償却限度額 = 支出額 × 支出の日から期末までの月数 ÷ 償却期間の月数
償却期間:5年(60か月) 当期の月数:7月1日〜3月31日=9か月
賃借期間が5年未満かつ更新時に権利金支払が明らかなため、償却期間は賃借期間の3年(36か月)となります。
賃借後の見積残存耐用年数の7/10 = 30年 × 7/10 = 21年(端数なし)
申告手続上の留意点
税務上の繰延資産(法人税法施行令第14条第1項第6号)について償却費を損金算入する場合、法人税確定申告書に「別表16(6)繰延資産の償却額の計算に関する明細書」を添付しなければなりません。記載内容は、繰延資産の種類・支出金額・支出年月日・償却期間・当期償却額・期末残高等です。
実務上の注意:別表16(6)の添付がない場合、当該事業年度の繰延資産の償却費は損金算入が認められない可能性があります。会計上の繰延資産(創立費等)については添付不要です。
税務上の繰延資産(第6号)の償却費を損金算入するには、確定した決算において「損金経理」を行うことが必要です。「繰延資産償却費」等の科目名でなくとも、実質的に繰延資産の費用化であれば損金経理として扱われます(法基通8-3-2)。
繰延資産となる費用を分割して支払う場合、総額が確定していても未払金に計上して一括償却することはできません。ただし、分割支払期間が短期間(おおむね3年以内)である場合はこの限りではありません。
実務上の留意点
前払費用との区別
繰延資産と前払費用はどちらも将来にわたって効果が及ぶ費用ですが、根本的に異なります。
消費税との関係(消費税法基本通達11-3-4)
繰延資産として計上する支出であっても、消費税の仕入税額控除はその課税仕入れ等を行った日(役務提供の完了した日等)の属する課税期間において一括して行います。繰延資産の税務上の償却期間にわたって按分する必要はありません。
中途解約・廃業時の処理
賃借権の権利金等の繰延資産について、賃借契約の中途解約や廃業等によって繰延資産の効果が消滅した場合は、未償却残額を損金算入することができます。ただし、転売可能な借家権等、「支出の効果が残っている」と認められるケースでは全額の損金算入が認められないことがあり、個別判断が必要です。
税務調査において問題となるケース
税務調査では、法人の支出が繰延資産に該当するかどうかがしばしば問題となります。通達で具体的に列挙されているものについてはあまり問題となりませんが、法人税法上の繰延資産の範囲は「自己が便益を受けるための支出でその効果が1年以上に及ぶもの」という非常に広い定義です。法令・通達に明記されているものはあくまで一例と考えたほうがよいでしょう。
権利金や負担金といった名目でなくても、その支払いが将来的な効用を生む先行投資のような意味合いを持つ場合、税務上の取扱いには注意が必要です。
例えば、自社への専属供給を確保するための仕入先設備の増強支援金や、自社商品の優先販売を確保するための営業人材確保の支援金なども、基本契約とセットになっている場合には支出の効果が長期に及ぶものと判断される可能性があります。
IT環境の進展によりプレミアムドメイン名や希少なSNSアカウントIDの取得に高額な費用がかかる例もありますが、こうした支出も集客・ブランド価値という便益が複数年続く支出と認定される可能性があります。
このように、繰延資産に該当するかどうかは事業内容や支出の目的、支出の及ぼす効果によって大きく異なります。金額が大きいもの、償却期間が長期に及ぶものは、税務調査で指摘を受けたときの修正税額も大きくなりがちです。判断に困った場合は積極的に税理士に相談することをお勧めします。
- 繰延資産は「支出済み・効果が将来に及ぶ費用」であり、会計上(5項目)と税務上(第6号を含め広範)で範囲が異なる
- 税務上の繰延資産(第6号)は均等償却が原則。損金経理と別表16(6)の添付が必要
- 償却期間は通達(法基通8-2-3)で類型ごとに定められており、20万円未満は少額特例で全額損金算入可能
- 前払費用との違いは「役務提供が完了しているか」。消費税の仕入税額控除は支出時に一括して行う
- 繰延資産の範囲は法令上非常に広く、名目にかかわらず実質判断される。高額・長期の支出は専門家への相談が有効