前回は重加算税の賦課要件を4つに整理しました。今回は各要件の個別検討に入る前に、主観的要件——誰のどこまでの認識(故意)が必要か——というテーマを取り上げます。実務上も誤解が多い論点です。
「認識(故意)」が必要なことは字義から明らか
重加算税の賦課要件として、何らかの認識(故意)が必要なことは「隠ぺい又は仮装」という字義から自然に読み取れます。無意識・過失による隠ぺい行為や仮装行為は観念できません。
問題は、求められる認識とは具体的に何かという点です。ここには、課税当局の職員や税理士等の専門家を含め、誤った理解をしている方が少なくありません。
結論:「過少申告」の認識は不要
「過少申告」の認識(故意)は不要
→ 理論的には誤り。
昭和62年5月8日 最高裁第二小法廷判決
上記の結論を示した有名な最高裁判決があります。
本判決は第1回で紹介した昭和45年判決(制度趣旨)を引用し、重加算税はあくまで行政上の措置であって「故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではない」という制度趣旨を前提に、上記の結論を導いています。
なぜ「過少申告」の認識が不要なのか——理論的背景
① 制度趣旨からの説明
重加算税制度は、逋脱犯に対する刑罰とは性質が異なります。日本の刑事法は故意犯処罰の原則を採用しており、逋脱犯においては「国の課税権」(保護法益)の侵害=過少申告行為に対する故意が犯罪構成要件となります。
仮に重加算税の賦課に「過少申告」の認識(故意)が必要とすると、逋脱犯の構成要件と実質的に重複してしまい、重加算税を行政上の措置と位置付けて憲法39条(二重処罰の禁止)の射程から外した根拠が失われかねません。
② 申告納税制度からの説明(著者による考察)
- ①資産の譲渡(売買・交換等)を行うこと(1項)
- ②棚卸資産等に該当しないこと(2項)
- ③譲渡の対価を得ること(3項)
- ④対価の額が取得費・譲渡費用・特別控除額の合計を超えること(3項)
・売却価額:200万円 / 取得費:50万円 / 譲渡費用:5万円 / 特別控除額:50万円
①〜④の課税要件事実がすべて充足されるため、A氏に譲渡所得95万円が発生。
納税申告はその「確定手続き」に過ぎない。
つまり、課税の前提となる法的事実・経済的事実を生のまま課税要件規定に取り込むことが原則です。その事実を意図的に隠ぺい・仮装する行為を防止することが重加算税の目的であり、さらに「過少申告の認識」まで要求することは、現行租税制度の趣旨からは余分な要件の付加となります。
昭和62年最高裁判決により、重加算税の主観的要件として必要なのは「隠ぺい又は仮装」の行為に対する故意であり、過少申告の認識(故意)は不要と明示されています。この結論は、重加算税を行政上の措置と位置付けた制度趣旨、および申告納税制度の構造から理論的に説明できます。