贈与税の主な特例解説

贈与税は、個人から財産を受け取った場合に課される税金です。通常は年間110万円の基礎控除を超えた部分に課税されますが、政策目的を踏まえた各種の「特例制度」を利用することで、一定の条件のもと、大きな非課税枠や課税の繰り延べ措置を受けることができます。この記事では、代表的な特例制度を最新の法令に基づいて解説するとともに、税務調査の実務目線からの解説をお届けします。

主な特例制度の非課税枠(一覧)

特例制度名 最大非課税限度額 適用期限・状況
住宅取得等資金の贈与 最大1,000万円 2026年12月31日まで(令和8年)
教育資金の一括贈与 1,500万円 2026年3月31日で終了(令和8年度改正で廃止)
結婚・子育て資金の一括贈与 1,000万円 2027年3月31日まで(令和7年度改正で2年延長)
相続時精算課税制度 2,500万円(生涯累計) 恒久制度(毎年110万円の基礎控除あり)
暦年課税(基礎控除) 110万円/年 恒久制度
贈与税の配偶者控除(居住用財産) 2,000万円 恒久制度(婚姻期間20年以上)

住宅取得等資金の贈与税の非課税特例

制度の概要

父母や祖父母などの直系尊属から、住宅の新築・取得・増改築のための資金を贈与された場合に、一定額まで贈与税が非課税となる制度です(租税特別措置法第70条の2)。令和6年度税制改正により適用期限が3年延長され、2026年(令和8年)12月31日までの贈与が対象となっています。

非課税限度額(2024年1月1日以後の贈与)

住宅の種類 非課税限度額
省エネ等住宅(省エネ・耐震・バリアフリーのいずれかの基準を満たす) 1,000万円
上記以外の一般住宅 500万円

主な適用要件

・贈与者が受贈者の直系尊属(父母・祖父母等)であること。配偶者の父母・祖父母は対象外
・贈与を受けた年の1月1日において受贈者が18歳以上であること
・贈与を受けた年の受贈者の合計所得金額が2,000万円以下であること(床面積が40㎡以上50㎡未満の住宅の場合は1,000万円以下)
・登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下で、2分の1以上が受贈者の居住用であること
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて新築・取得・増改築等をすること
・同日までに居住すること、または遅くとも同日後遅滞なく居住することが確実と見込まれること
・配偶者・親族など一定の特別の関係がある人から住宅を取得したものでないこと
・贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること(受贈者が一時居住者であり、かつ贈与者が外国人贈与者または非居住贈与者である場合を除く)。なお、国内に住所を有しない人であっても、一定の場合には適用を受けられます
⚠️

贈与を受けた年の翌年12月31日までにその家屋に居住していないときは、原則として本特例の適用を受けられず、修正申告が必要となります。「入居予定」で申告した場合は、その後の履行状況が問われます。

「省エネ等住宅」の基準(2024年1月1日以後)

区分 基準
省エネ性能 断熱等性能等級5以上 かつ 一次エネルギー消費量等級6以上
耐震性能 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上、または免震建築物であること
バリアフリー 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上であること
◆ 経過措置
2023年12月31日までに建築確認を受けた住宅、または2024年6月30日までに建築された住宅については経過措置があり、改正前の基準(断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上)で1,000万円の適用を受けられます。この場合、旧様式の住宅性能証明書等の添付が必要です。

本特例の大きなメリット

最大のポイント
非課税の適用を受けた金額は
生前贈与加算の対象にならない

本特例の適用を受けた金額は、贈与者が亡くなった場合の生前贈与加算(相続開始前7年以内の贈与の相続財産への持ち戻し)の対象になりません。教育資金・結婚子育て資金の特例が贈与者死亡時に残額を相続財産に加算するのと対照的で、資産移転の確実性という点で優れています。また、住宅ローン控除との併用も可能です(ただし控除額の計算上、贈与を受けた金額は住宅の取得対価から差し引かれます)。

教育資金の一括贈与の非課税特例【2026年3月31日終了】

制度の終了

祖父母や父母などの直系尊属から30歳未満の子・孫等へ教育資金を一括贈与した場合に、1人につき1,500万円まで(学校等以外への支払いは500万円まで)が非課税となる制度でした。令和8年度税制改正により適用期限が延長されず、2026年3月31日をもって終了しました。

⚠️

■ 重要
2026年4月1日以降、新規の教育資金管理契約の締結および既存口座への追加拠出はできません。ただし、2026年3月31日までに拠出済みの資金については、引き続き非課税措置が適用され、教育費としての払い出しが可能です。廃止の背景には、幼児教育・保育の無償化や高校授業料の実質無償化など公的支援の拡充、利用件数の低迷、格差固定化への懸念があります。

制度の内容(既存口座をお持ちの方向け)

区分 限度額 具体例
学校等への直接支払い 1,500万円 入学金・授業料・保育料・給食費・施設整備費 等
学校等以外への支払い 500万円(内数) 学習塾・習い事・スポーツクラブ・通学定期券代 等

既存口座の管理上の注意点

・払い出しは領収書等を金融機関に提出して使途を証明する必要があります。提出期限は金融機関の方式に従います(年内払い出し分を翌年3月15日までに提出する方式が一般的)
・受贈者が30歳に達した時点で残額がある場合、原則として贈与税が課されます(在学中・教育訓練受講中の場合は所定の届出で最長40歳まで延長可能)
・契約終了時に残額が贈与とみなされる場合、令和5年度改正により直系尊属贈与の特例税率ではなく一般税率が適用されます
・贈与者が死亡した時点で管理残額がある場合、原則として相続財産に加算されます。受贈者が23歳未満・在学中等の場合の除外規定はありますが、贈与者の相続財産総額が5億円を超える場合は年齢・在学状況にかかわらず加算されます
・孫・ひ孫が受贈者で残額が相続財産に加算される場合、相続税額の2割加算の対象となります
・受贈者の死亡により契約が終了した場合、残額に贈与税は課されません

制度終了後の代替手段

代替手段 概要
都度贈与(扶養義務者間の教育費) 入学金・授業料等を必要な都度、直接支払う場合は社会通念上相当な範囲で贈与税が課されません。一括で渡して預金される場合は課税対象となるリスクが高い。
暦年課税(年110万円) 毎年110万円以下であれば非課税。ただし相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されます。
相続時精算課税(年110万円の基礎控除) 2024年以降の年110万円分は相続財産への加算対象外。使途の制限がなく、教育費以外にも活用可能。
こどもNISA 令和8年度税制改正により創設された0〜17歳を対象とする非課税投資制度(未成年者特定累積投資勘定)。2027年1月開始で、年間投資枠60万円・非課税保有限度額600万円。贈与税の非課税制度ではありませんが、教育資金の準備手段として選択肢になります。

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税特例

制度の概要

父母・祖父母などの直系尊属から18歳以上50歳未満の子・孫へ、結婚や子育てに充てるための資金を一括贈与した場合に、1人につき1,000万円まで(結婚関連費用は300万円まで)が非課税となる制度です(租税特別措置法第70条の2の3)。令和7年度税制改正により適用期限が2年延長され、2027年(令和9年)3月31日までの拠出が対象となりました。

⚠️

令和7年度税制改正大綱には、利用件数が低迷している状況を踏まえ、関係省庁において子育てをめぐる給付と負担のあり方や真に必要な対応策について改めて検討すべきである旨が明記されています。教育資金特例が廃止された経緯からも、次回改正での存廃について注視が必要です。

非課税限度額と対象費用

区分 限度額 主な対象費用
子育て関連費用 1,000万円 不妊治療費・妊婦健診費・分娩費用・産後ケア費用・子の医療費・保育料 等
結婚関連費用 300万円(内数) 挙式費用・衣装代・家賃・敷金等の新居費用・転居費用(婚姻前後1年以内のもの)

主な適用要件

・受贈者が贈与を受ける時点で18歳以上50歳未満であること
・受贈者の前年の合計所得金額が1,000万円以下であること
・金融機関で結婚・子育て資金口座を開設し、結婚・子育て資金非課税申告書を金融機関経由で税務署長に提出すること(この提出により別途の贈与税申告は不要)
・払い出した資金は領収書等で使途を証明すること
・受贈者が50歳に達した時点、または口座残高がゼロで契約終了の合意があった場合などに契約が終了し、残額は贈与税の課税対象となること

教育資金特例との比較

比較項目 教育資金(終了) 結婚・子育て資金(現行)
受贈者の年齢 30歳未満 18歳以上50歳未満
非課税限度額 1,500万円 1,000万円
適用期限 2026年3月31日で終了 2027年3月31日まで
贈与者死亡時の残額 原則として相続財産に加算(一定の除外あり) 受贈者の年齢等にかかわらず相続財産に加算
孫が受贈者の場合 加算時に相続税の2割加算あり 加算時に相続税の2割加算あり

相続時精算課税制度

制度の概要

贈与の年の1月1日において60歳以上の父母・祖父母から、同日において18歳以上の推定相続人である直系卑属(子など)または孫へ贈与する際に選択できる制度です。累計2,500万円の特別控除と、2024年から新設された毎年110万円の基礎控除を利用できます。贈与時には税負担が軽減され、相続時に贈与財産を相続財産に合算して相続税を精算します。

相続時精算課税のポイント(2024年1月1日以後の贈与)

項目 内容
基礎控除額
(令和5年度改正で新設)
毎年110万円。相続財産への加算対象外。年110万円以下の贈与なら申告も不要
特別控除額 累計2,500万円(基礎控除を控除した後の金額から控除)
贈与税率 特別控除超過分に一律20%
相続時の精算 基礎控除超過分を贈与時の価額で相続財産に合算。納付済み贈与税額は相続税額から控除(控除しきれない分は還付)
制度の選択 贈与者ごとに選択。一度選択するとその贈与者からの贈与について暦年課税に戻れない
選択の手続 選択した年分の贈与税申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」を提出

令和5年度改正(2024年適用)の主なポイント

・毎年110万円の基礎控除が新設されました。この基礎控除額は暦年課税の基礎控除とは別枠であり、相続財産への加算対象外です
・同一年中に2人以上の特定贈与者から贈与を受けた場合、基礎控除110万円は特定贈与者ごとの贈与額に応じて按分されます(合計で110万円が上限)
・贈与を受けた土地・建物が2024年1月1日以後に生じた災害により一定以上の被害を受けた場合、相続時の加算価額から被災価額を控除できる再計算の特例が創設されました
・再計算の特例を受けるには、原則として災害発生日から3年を経過する日までに、り災証明書等を添付した申請書を所轄税務署長に提出し承認を受ける必要があります

暦年課税との比較

比較項目 暦年課税 相続時精算課税
基礎控除 110万円/年 110万円/年 + 特別控除2,500万円(累計)
相続財産への加算 相続開始前7年以内の贈与(段階的に延長中) 基礎控除超過分のみ(年110万円以内は加算されない)
税率 累進税率(10〜55%) 特別控除超過分に一律20%
贈与財産の評価時点 贈与時の価額で加算 贈与時の価額で加算
適した場面 早期から長期にわたり少額を継続贈与する場合 高齢での資産移転、高額資産や将来値上がりが見込まれる資産の移転
制度の撤回 不要(年ごとに判断可) 一度選択すると取り消し不可
⚠️

相続時精算課税は贈与者ごとに選択でき、一度選択するとその贈与者からの贈与について暦年課税に戻れません。また、贈与財産が不動産の場合、相続時に小規模宅地等の特例が適用できず、贈与時に不動産取得税・登録免許税が課される点にも注意が必要です。

特例制度の活用ポイントと選択の考え方

目的別の制度選択

目的・場面 活用を検討すべき制度
子・孫のマイホーム購入支援 住宅取得等資金の贈与(最大1,000万円、2026年12月31日まで)
教育費の支援(2026年4月以降) 都度贈与(扶養義務の範囲)/相続時精算課税の年110万円基礎控除
結婚・出産・育児の支援 結婚・子育て資金の一括贈与(最大1,000万円、2027年3月31日まで)
高額資産・自社株の早期移転 相続時精算課税(特別控除2,500万円+毎年110万円の基礎控除)
少額・長期の継続的な資産移転 暦年課税(毎年110万円)。ただし7年加算に留意し早期開始が必須
夫婦間の居住用不動産の移転 贈与税の配偶者控除(婚姻期間20年以上・最大2,000万円)

組み合わせ活用のケース

ケース① 祖父母から孫へ

住宅取得等資金特例(1,000万円)を活用しつつ、親からは相続時精算課税の年110万円基礎控除で継続贈与。いずれも生前贈与加算の対象外です。

ケース② 父から子へ

自社株を相続時精算課税で早期に一括移転し、業績向上による将来の株価上昇分を相続財産から切り離す。

ケース③ 祖父から孫へ

結婚・子育て資金(1,000万円)を活用。孫が相続人とならず、相続・遺贈により管理残額以外の財産を取得しない場合は、暦年贈与の生前贈与加算の対象外です(措法70の2の3⑫、相続税法19条の適用なし)。ただし、贈与者が死亡した時点の管理残額そのものは相続財産に加算され、令和3年4月1日以後の拠出分に対応する部分は相続税額の2割加算の対象となりますので、使い切れる見込みの金額で設計することが重要です。

手続きの流れ(住宅取得等資金の例)

ステップ 内容 期限
① 贈与契約書の作成・金銭の授受(振込により記録を残す) 贈与を行う年中
② 住宅の売買契約・建築請負契約の締結 翌年3月15日までの取得に間に合うよう
③ 住宅の新築・取得・増改築等および居住開始 贈与を受けた年の翌年3月15日まで
④ 贈与税の申告書および非課税の適用に関する明細等の提出 翌年2月1日〜3月15日
⑤ 住宅性能証明書等の添付書類の提出 申告期限内に税務署へ

共通の注意事項とよくある誤解

申告の要否

・住宅取得等資金の特例は、非課税枠内であっても贈与税の申告が必須です。申告がなければ特例は適用されません
・相続時精算課税は、選択初年度に「相続時精算課税選択届出書」の提出が必要です。選択後は年110万円以下であれば申告不要です
・結婚・子育て資金は、金融機関経由で非課税申告書を提出することで手続きが完了し、別途の贈与税申告は不要です
・暦年課税は年110万円以下であれば申告不要です

よくある誤解

よくある誤解 正しい理解
「現金を手渡せば把握されない」 預貯金の入出金履歴、不動産登記、支払調書等から資金の流れは把握され得ます。受贈者の収入に見合わない資産の増加があれば発覚します。
「子名義の口座を作れば贈与は完了」 受贈者が口座の存在を知らず、通帳・印鑑を贈与者が管理している場合は名義預金として贈与者の財産と扱われます(贈与の事実はなかったものと扱われ、生前贈与による相続対策になりません)。
「特例を使えば何でも非課税になる」 各制度に目的・要件・上限があり、目的外の支出や要件違反は課税対象となります。
「相続時精算課税は常に有利」 将来の相続財産規模や相続税率次第では暦年課税が有利な場合もあり、選択の撤回はできません。
「申告期限を過ぎても後で申告すればよい」 住宅取得等資金の非課税は期限内申告が要件です。期限後申告では原則として適用を受けられません。

生前贈与加算(7年ルール)の全体像

令和5年度税制改正により、2024年1月1日以後の暦年課税による贈与から、相続開始前の生前贈与加算期間が3年から7年へ延長されました。ただし、延長された4年間(相続開始前3年超7年以内)の贈与については、その財産の価額の合計額から総額100万円を控除できます(各年ごとではなく、4年分の合計に対する控除です)。

相続開始の時期 加算対象期間
〜2026年12月31日 相続開始前3年以内(改正前と同じ)
2027年1月1日〜2030年12月31日 2024年1月1日以後の贈与が対象となり、加算期間が段階的に拡大
2031年1月1日以降 相続開始前7年以内(完全移行)

なお、生前贈与加算の対象となるのは「相続または遺贈により財産を取得した者」に限られます。相続財産を取得しない孫などへの贈与は、原則として加算の対象外です。ただし、孫が代襲相続人となる場合や、遺贈・生命保険金を受け取る場合には加算対象となります。

また、教育資金・結婚子育て資金の管理残額を相続により取得したものとみなされた人であっても、その贈与者から管理残額以外の財産を取得していない場合は、生前贈与加算の対象とはなりません(措法70の2の2⑫、70の2の3⑫。相続時精算課税適用者である場合を除く)。

加算対象外となるもの
①相続時精算課税の年110万円基礎控除分
②住宅取得等資金の非課税適用額
③贈与税の配偶者控除の適用額(2,000万円まで)

元国税調査官の視点

ここからは、税務調査に携わってきた実務者の目線から、贈与税・相続税の調査で実際に何が問われ、どのような準備が有効かを整理します。適正な申告を行うための備えとしてお読みください。

調査官が最初に見るのは「特例の要件」ではなく「お金の流れ」

贈与税の特例が適用された申告に対する確認では、非課税枠の計算よりも先に、資金が実際に誰から誰へ、どのように移動したかが見られます。制度の名称や金額が正しくても、資金移動の実態がそれと合っていなければ、特例そのものの前提が崩れるためです。

・贈与者の口座から受贈者の口座へ、贈与日として申告された日に、申告額と一致する金額が動いているか
・その資金が、申告された目的(住宅の購入代金など)に実際に充当されているか
・贈与者側に、その金額を拠出できる資金的な裏付けがあるか(過去の所得・退職金・不動産売却等)
・受贈者側で、贈与後にその資金を自分の判断で管理・使用しているか

⚠️

◆ 実務上のポイント
現金手渡しは、贈与の事実そのものを立証できない点で受贈者に不利に働きます。特例の適用を受けるのであれば、必ず銀行振込で記録を残してください。「非課税だから通帳に残さなくてよい」という考え方は、後で最も不利になります。

最頻出の論点は「名義預金」

相続税の調査で指摘件数が最も多い項目のひとつが名義預金です。子や孫の名義になっている預金であっても、実質的な帰属が被相続人にあると判断されれば、贈与の事実はなかったものと認定されます。名義を変えただけでは贈与は成立しません。

名義預金と判断されやすい典型例

着目される事実 調査官の見方
受贈者が口座の存在を知らなかった 受贈の意思表示がなく、贈与契約が成立していない
通帳・印鑑・キャッシュカードを贈与者が保管している 実質的な支配・管理が贈与者に残っている
届出印が贈与者本人の印鑑と同一 受贈者が独立して口座を管理していない
口座開設地が受贈者の生活圏ではなく贈与者の住所地の金融機関 贈与者が受贈者に無断で開設した可能性が高い
専業主婦・学生名義で収入に見合わない残高がある 配偶者・親の資金が原資である可能性を検討
入金以外の動きがまったくない(生活利用の形跡なし) 受贈者が自らの財産として使用していない

名義預金と言われないための備え

① 贈与のつど贈与契約書を作成し、贈与者・受贈者双方が自署・押印する
② 受贈者本人が金融機関に出向いて口座を開設し、届出印は受贈者固有のものを使う
③ 通帳・印鑑・カードは受贈者本人が保管する
④ 受贈者名義の口座から、受贈者自身の支出(生活費・学費・投資等)が行われている実績を残す
⑤ 受贈者が未成年の場合は親権者が管理してよいが、成人後は速やかに本人管理へ移行する

税務署はどこまで把握しているのか

国税総合管理(KSK)システムにより、全国の国税局・税務署が納税者の申告・納税に関する情報を一元的に管理しています(令和8年9月に次世代システム「KSK2」への移行が予定されています)。申告書の内容だけでなく、各種の法定調書がここに集約され、相続税の申告時に過去の資金移動と突き合わせて検討されます。

情報源 把握される内容
預貯金の照会 被相続人だけでなく、相続人・親族名義の口座も対象となり得る。入出金履歴から資金移動を追跡
生命保険金・退職金の支払調書 保険会社・勤務先から税務署へ提出される
不動産等の譲受けの対価の支払調書 高額な不動産取引の当事者と金額
国外送金等調書 100万円を超える海外送金・受金は金融機関から税務署へ提出される
過去の所得税・贈与税の申告内容 贈与者の資力、過去の贈与申告の有無との整合性

「税務署に知られないだろう」という前提は基本的に成り立たないと考えて対策することが大切です。むしろ重要なのは、把握された事実に対して合理的な説明ができる資料を、贈与の時点で残しておくことです。調査は多くの場合、贈与から何年も経ってから行われます。当時の記憶ではなく、当時の書類が判断の根拠となります。

特例別・実務で指摘を受けやすい点

◆ 住宅取得等資金の贈与

・贈与を受けた資金が住宅取得の対価に「充当されていない」ケース。いったん受贈者の口座に入った後、家具購入や住宅ローンの返済に充てられていた場合、その部分は特例の対象外となります
・贈与時期と契約時期の前後関係。住宅の代金を先に支払い、後から資金を受け取った場合は、その資金の充当が認められないことがあります。贈与を受けた資金が住宅の購入に充てられたといえるだけの根拠を残しましょう
・翌年3月15日までの取得・居住要件の未達。「入居予定」で申告した後、翌年12月31日までに居住していない場合は修正申告が必要です
・省エネ等住宅の証明書類の不備。1,000万円枠を使うには、基準に応じた証明書の期限内添付が必須です
・受贈者の合計所得金額の判定漏れ。譲渡所得等がある年は2,000万円要件を超えることがありますので注意が必要です

◆ 教育資金・結婚子育て資金の一括贈与

・贈与者が死亡した際の管理残額の相続財産への加算漏れ。金融機関からの通知を相続人が把握しておらず、申告に反映されていない例が見られます。住宅取得等資金の特例とは取扱いが異なるので注意しましょう
・契約終了時の残額に対する贈与税の申告漏れ。受贈者が30歳(または50歳)に達した年の翌年に申告義務が生じます
・目的外の払い出し。領収書の名義・日付・内容が制度の対象範囲に合致しているかが確認されます

◆ 相続時精算課税

・選択届出書の提出漏れ。届出をせずに2,500万円の特別控除を適用した申告は認められません
・過去の精算課税贈与の相続財産への加算漏れ。制度選択から相続まで20年以上経過している例もあり、当時の申告書の保管が重要です
・年110万円の基礎控除の按分誤り。父と母の双方から精算課税で贈与を受けた場合、基礎控除は合計110万円が上限です
・2023年以前の精算課税贈与には110万円の基礎控除がないため、少額でも全額が相続財産に加算されます

申告漏れが判明した場合のペナルティ

種類 内容
無申告加算税 調査の事前通知前に自主的に期限後申告をした場合は軽減され、調査による指摘で申告した場合はより重くなります。過去に無申告加算税等を課された履歴があると加重される規定もあります
過少申告加算税 期限内申告後に税額が過少と判明した場合。自主的な修正申告か調査による指摘かで取扱いが異なります
重加算税 事実の隠蔽・仮装があったと認定された場合に、無申告加算税・過少申告加算税に代えて課される最も重いもの
延滞税 本税の納付が遅れた期間に応じて課される利息相当額。加算税には課されません
⚠️

◆ 実務上のポイント
誤りに気づいた時点で自主的に修正申告・期限後申告を行うことが、負担を最小化する最も確実な方法です。調査の事前通知を受けた後では軽減の余地が狭まります。「時効を待つ」という考え方は、贈与の事実自体が争われる名義預金のケースでは機能しません。

調査で説明を求められたときに効く資料

贈与の適正性を裏づける資料は、贈与を行った時点でしか作れません。以下は、実際の調査の場面で説明の裏づけとして機能する代表的な書類です。

・日付入りの贈与契約書(贈与者・受贈者の自署、確定日付があればなお可)
・贈与者・受贈者双方の通帳(振込記録が確認できるもの)
・贈与税の申告書控えおよび収受印のある提出書類
・住宅の売買契約書・請負契約書・領収書、登記事項証明書
・省エネ等住宅の性能証明書、住宅性能評価書等
・相続時精算課税選択届出書の控え(相続発生時まで保管)
・金融機関から交付される管理残額に関する通知(教育資金・結婚子育て資金)

贈与は「あげた」「もらった」という双方の意思の合致と、財産の実質的な支配の移転によって初めて成立します。書類と資金の流れがその実態を示していれば、調査で問題となることはほとんどありません。

まとめ

✅ まとめ

贈与税の特例制度は、目的に応じて大きな非課税枠を活用できる有効な手段です。一方で、適用期限・要件・相続との関係は複雑であり、近年は制度の改廃も相次いでいます。

令和8年度税制改正では、教育資金の一括贈与の非課税特例が2026年3月末をもって廃止されました。結婚・子育て資金の特例は2027年3月31日まで延長されていますが、今後の存廃について検討すべき旨が大綱に明記されています。住宅取得等資金の特例は2026年12月31日が期限です。

制度を使うかどうかと同じくらい重要なのが、贈与の事実を後から説明できる形で残しておくことです。契約書・振込記録・申告書控えという基本を押さえることが、結果として最も確実な備えになります。個別の判断については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

※本記事は2026年8月時点の法令および令和8年度税制改正の内容に基づき作成しています。税制は毎年改正されるほか、通達・質疑応答事例により取扱いが変更される場合があります。具体的な税務判断については、必ず税理士または所轄税務署にご確認ください。
※「元国税調査官の視点」の章は、資産税分野の税務調査実務において一般に着目される論点を整理したものであり、特定の個人の見解を示すものではありません。

濱名柾明
税理士 濱名柾明
元東京国税局職員(13年・税務調査実績200件超)

東京国税局にて13年間、法人・個人事業者の税務調査に従事。調査官として現場で見てきた実態をもとに、経営者にとって本当に役立つ税務情報を発信している。現在は濱名税理士事務所にて税理士として、税務顧問・税務調査対応・相続税申告等を中心に業務を行う。

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