相続税は、被相続人(亡くなった方)から相続や遺贈によって取得した財産、および相続時精算課税の適用を受けて贈与により取得した財産(相続時精算課税適用財産)の価額の合計額が基礎控除額を超える場合に課税される税金です。その課税範囲は、財産取得者(相続人等)の住所・国籍と、被相続人の区分によって異なり、「無制限納税義務者」「制限納税義務者」「特定納税義務者」の3類型(細分すると5区分)に分類されます。
① 相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除を新設。110万円以下の贈与は相続税の課税価格にも算入不要。
② 暦年課税の生前贈与加算期間を3年から最長7年に延長。令和9年(2027年)以後の相続から段階的に拡大。
納税義務者の区分一覧(マトリクス表)
相続人(財産取得者)と被相続人の住所・国籍の組み合わせによって、下表のとおり納税義務者区分が決まります。
| 被相続人 \ 相続人 | 国内に住所あり | 国内に住所なし | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 一時居住者 以外 |
一時居住者 (注2) |
日本国籍あり | 日本国籍 なし |
|||
| 10年以内に 国内に住所あり |
10年以内に 国内に住所なし |
|||||
| 国内に住所あり | ① | ① ※ |
②イ(イ) | ②イ(ロ) ※ |
②ロ ※ |
|
| 外国人被相続人(注3) | ① | ③ | ②イ(イ) | ④ | ④ | |
| 国内に 住所なし |
10年以内に国内に住所あり | ① | ① ※ |
②イ(イ) | ②イ(ロ) ※ |
②ロ ※ |
| 非居住被相続人(注4) | ① | ③ | ②イ(イ) | ④ | ④ | |
| 10年以内に国内に住所なし (非居住被相続人) |
① | ③ | ②イ(イ) | ④ | ④ | |
(注1)上表には、相続税法第1条の3第1項第5号に規定する贈与により相続時精算課税の適用を受ける財産を取得した人(特定納税義務者)は含まれません。
(注2)「一時居住者」……相続開始の時において在留資格(入管法別表第一)を有し、相続開始前15年以内に日本国内に住所を有していた期間の合計が10年以下の人。
(注3)「外国人被相続人」……相続開始の時に在留資格を有し、かつ日本国内に住所を有していた被相続人。
(注4)「非居住被相続人」……相続開始の時に日本国内に住所を有していなかった被相続人で、①相続開始前10年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがある人のうち、そのいずれの時においても日本国籍を有していなかった人、または②相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがない人(国籍を問わない)。
(注5)上表の※の区分については、平成27年7月1日以降に被相続人が「国外転出時課税の納税猶予の特例」の適用を受けていたときは、上記(注2)から(注4)と取扱いが異なる場合があります。
(注6)留学や海外出張など一時的に日本国内を離れている人は、日本国内に住所があることになります。
(注7)「非居住外国人」……平成29年4月1日から相続または遺贈の時まで引き続き日本国内に住所を有せず、かつ日本国籍も有していない人。なお、相続税については、非居住外国人から財産を取得した場合の特例(相基通1の3・1の4共-3の注書)は、平成29年4月1日から令和4年3月31日までの間に開始した相続に係る経過的な取扱いです。
無制限納税義務者
無制限納税義務者とは、相続・遺贈により取得した国内・国外すべての財産が相続税の課税対象となる人をいいます。居住の有無により「居住無制限納税義務者」と「非居住無制限納税義務者」に分かれます。
居住無制限納税義務者(区分①)
財産取得時に日本国内に住所を有している人(一時居住者を除く)
日本に住所がある人は、国籍を問わず原則として居住無制限納税義務者となります。ただし「一時居住者(注2)」に該当し、かつ被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である場合は、居住制限納税義務者(区分③)となり、課税対象が国内財産のみに限定されます。
留学・海外出張など一時的に日本を離れている人は、生活の本拠が日本にある限り「日本国内に住所を有する」と判断されます(国税庁タックスアンサー No.4138 注6)。
非居住無制限納税義務者(区分②)
日本国内に住所を有しない人でも、以下のいずれかに該当する場合は非居住無制限納税義務者となり、全財産が課税対象となります。
| 区分 | 要件 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| ②イ(イ) | 住所なし・日本国籍あり・相続開始前10年以内に国内住所あり | 10年のカウントは「過去10年以内に住所を有していたことがあるか」で判定。滞在期間の合計ではない。 |
| ②イ(ロ) | 住所なし・日本国籍あり・相続開始前10年以内に国内住所なし(被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である場合を除く) | 10年超の海外在住者でも、被相続人が日本居住の日本人であれば全財産課税。被相続人側の区分が決め手。 |
| ②ロ | 住所なし・日本国籍なし(被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人のいずれでもない場合) | 外国籍者でも、被相続人が日本居住の日本人であれば全財産課税。 |
すべての財産
制限納税義務者
制限納税義務者とは、日本国内にある財産のみが相続税の課税対象となる人をいいます。居住の有無により「居住制限納税義務者」と「非居住制限納税義務者」に分かれます。
居住制限納税義務者(区分③)
財産取得時に日本国内に住所を有するが一時居住者(注2)に該当し、かつ被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である人
在留資格で日本に滞在する一時居住者であっても、被相続人も外国に関係が深い場合(外国人被相続人・非居住被相続人)には、課税範囲が国内財産のみに限定されます。
非居住制限納税義務者(区分④)
日本国内に住所を有しない人で、区分②(非居住無制限)に該当しない人
住所がなく、かつ無制限納税義務者の要件(区分②)も満たさない場合は、国内財産のみが課税対象となります。
制限納税義務者には、債務控除の範囲に制限があります(相法13②)。控除できるのは取得した国内財産に係る債務等に限られ、葬式費用は原則として控除できません。また、未成年者控除・障害者控除の適用もありません。
特定納税義務者(区分⑤)
区分①〜④のいずれにも該当しない人が、被相続人から贈与により相続時精算課税適用財産を取得した場合、その財産のみが課税対象となります(相法1の3①五、21の14〜21の16)。
相続時精算課税適用財産の価額は、令和6年1月1日以後の贈与分から年110万円の基礎控除額を控除した残額が相続税の課税価格に算入されます(相法21の9③)。
納税義務者区分の比較まとめ
| 区分 | 名称 | 主な該当者 | 課税財産の範囲 | 住所 |
|---|---|---|---|---|
| ① | 居住無制限 | 日本居住者(一時居住者を除く) | 国内+国外すべて | あり |
| ②イ(イ) | 非居住無制限 | 住所なし・日本国籍あり・10年以内に国内住所あり | 国内+国外すべて | なし |
| ②イ(ロ) | 非居住無制限 | 住所なし・日本国籍あり・10年以内に国内住所なし(被相続人が外国人被相続人等以外) | 国内+国外すべて | なし |
| ②ロ | 非居住無制限 | 住所なし・日本国籍なし(被相続人が外国人被相続人等以外) | 国内+国外すべて | なし |
| ③ | 居住制限 | 一時居住者(被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人) | 国内財産のみ | あり |
| ④ | 非居住制限 | 住所なし・②に該当しない人 | 国内財産のみ | なし |
| ⑤ | 特定納税義務者 | 相続時精算課税適用財産のみを取得した人(①〜④以外) | 相続時精算課税適用財産のみ | 問わない |
納税義務者区分の判定フロー
財産取得者がどの区分に該当するかは、次の順に確認していきます。
※ 上記のほか、①〜④に該当しない人が相続時精算課税適用財産を取得した場合は、⑤特定納税義務者としてその財産のみが課税対象となります。
※ 平成29年4月1日から令和4年3月31日までに開始した相続については、被相続人が「非居住外国人(注7)」である場合の経過的な取扱いがあります。
令和5・6年度税制改正と実務上の影響
相続時精算課税制度の基礎控除新設
令和5年度税制改正により、令和6年1月1日以後の贈与から相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が新設されました(相法21の9③)。
1円でも贈与があれば贈与税申告が必要。贈与財産の全額が相続時に課税価格へ算入。
年間110万円以下の贈与は贈与税申告不要(初年度の選択届出書は必要)。相続税の課税価格への算入も不要。
・特別控除2,500万円とは別枠。ただし110万円の基礎控除は、特定贈与者が複数いても合計で年110万円が上限です(贈与者ごとに110万円ずつではありません)。
・相続時精算課税を一度選択すると、同一の特定贈与者からの贈与について暦年課税に戻ることはできません。
暦年課税の生前贈与加算期間の延長
令和5年度税制改正により、暦年課税における相続財産への生前贈与加算期間が3年から最長7年へ延長されました(令5改正法附則19)。
| 相続開始日 | 加算対象期間 | 備考 |
|---|---|---|
| 〜令和8年(2026年)12月31日 | 相続開始前3年以内 | 改正の影響なし |
| 令和9年(2027年)〜令和12年(2030年)12月31日 | 令和6年1月1日〜相続開始日(段階的に延長) | 3年超の部分は合計100万円まで加算不要 |
| 令和13年(2031年)1月1日以降 | 相続開始前7年以内 | 3年超4年間の贈与は合計100万円まで加算不要 |
現時点(令和8年・2026年)では、加算対象は「相続開始前3年以内」のままです。令和9年(2027年)1月1日以降の相続から段階的に延長されます。
関連用語の解説
| 用語 | 定義・説明(国税庁タックスアンサー No.4138 準拠) |
|---|---|
| 住所 | 各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定します(相基通1の3・1の4共-5)。同一人について同時に2箇所以上の住所はないものとされます。 |
| 一時居住者 | 相続開始の時において在留資格(入管法別表第一)を有し、相続開始前15年以内に日本国内に住所を有していた期間の合計が10年以下の人。 |
| 外国人被相続人 | 相続開始の時に在留資格を有し、かつ日本国内に住所を有していた被相続人。 |
| 非居住被相続人 | 相続開始の時に日本国内に住所を有していなかった被相続人で、①相続開始前10年以内のいずれかの時に住所を有していたことがあるが、そのいずれの時においても日本国籍を有していなかった人、または②相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがない人(国籍を問わない)。 |
| 非居住外国人 | 平成29年4月1日から相続または遺贈の時まで引き続き日本国内に住所を有せず、かつ日本国籍も有していない人。 |
| 相続時精算課税 | 令和6年1月1日以後の贈与から年110万円の基礎控除が新設された制度。2,500万円の特別控除との併用可。一度選択すると、同一贈与者に対して暦年課税に戻ることができない。 |
| 外国税額控除 | 国外財産について外国の相続税相当額が課税された場合に、日本の相続税額から一定額を控除できる制度(相法20の2)。無制限納税義務者のみ適用可。 |
| 財産の所在 | 制限納税義務者の課税範囲を決める重要な判定。預貯金は受入営業所、株式は発行法人の本店、貸付金は債務者の住所など、財産の種類ごとに判定基準が定められています(相法10)。 |
実務上の注意事項
・住所の判定は住民票の登録ではなく、生活の本拠(客観的事実)によって判断されます(相基通1の3・1の4共-5)。
・留学・海外出張など一時的に日本を離れている場合は、日本国内に住所があるとみなされます。
・制限納税義務者は債務控除の範囲が限定され、葬式費用は控除できません(相法13②)。
・平成27年7月1日以降に「国外転出時課税の納税猶予の特例」の適用を受けていた場合、上記判定と異なる取扱いとなる場合があります。
・人格のない社団・財団または持分の定めのない法人に対して相続税が課される場合があります(相法66)。
・国外財産を含む相続では、外国の相続税相当額について外国税額控除(相法20の2)を検討します。
・日本国内に住所がない人が相続税を申告する場合、納税管理人を定めて所轄税務署長へ届出が必要です(通則法117)。
・判定が複雑なケースでは、税理士等の専門家への相談を強く推奨します。
元国税調査官の視点
「住所」がどこかという論点
今でこそ制限納税義務者となる範囲が限られており、住所を移転することによる租税回避が難しくなっていますが、一昔前は一時的に住所を海外に移すことにより制限納税義務者となり、国外財産に対する相続税の課税を免れる行為が散見されました。度重なる法改正の契機となったのが、後にご紹介する武富士事件という有名な事件です。
住所移転による税負担の軽減が難しくなったとはいえ、国際相続の調査で最初に検証されるのは、相続人・被相続人の「住所」です。現行制度においても、ここが動けば課税範囲が国内財産のみから全世界財産へと一変するため、税額へのインパクトが最も大きい論点だからです。
重要なのは、住民票の記載や海外転出届の有無だけでは決まらないという点です。相続税法基本通達1の3・1の4共-5は「生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する」と定めており、調査官も次のような客観的事実を積み上げて判断します。
調査官が積み上げる客観的事実
・国内外の滞在日数(出入国記録で正確に把握されます)
・居宅の所有・賃借状況、水道光熱費の使用実態
・職業・勤務先の所在、役員就任状況
・配偶者・子など生計を一にする親族の居住地
・資産の所在(国内不動産、国内金融機関口座の稼働状況)
・健康保険・年金・運転免許・クレジットカードの利用地
【武富士事件(最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決)の教訓】
最高裁は、住所とは生活の本拠、すなわちその者の生活に最も関係の深い一般的生活・全生活の中心であり、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているかで決すべきと判示しました。租税回避の意図があっても、客観的実体が海外にあれば住所は海外と認定されます。裏を返せば、形式的に住民票を移しただけで実体が国内にあれば、住所は国内と認定されるということです。この事件で国側が敗訴し、その後の規制強化の流れが加速しました。
「出国直後の相続」と10年ルール
調査の現場で申告誤りが目立つのが、被相続人または相続人が海外へ転出して間もない時期に相続が発生したケースです。
・海外転出から10年以内は、日本国籍者であれば非居住無制限納税義務者(区分②イ(イ))となり、国外財産も課税対象になります。
・この10年は「継続して住んでいた期間」ではなく「過去10年以内に日本国内に住所を有していたことがあるか」で判定されます。転出後9年11か月でも該当します。
・相続人が複数いる場合、それぞれの住所・国籍で区分が異なります。「長男は制限、次男は無制限」という事態が普通に起こります。
特に多い誤りは、相続人全員を一律に同じ区分として申告してしまうケースです。納税義務者区分は相続人ごとに個別判定が必要であり、申告書第1表の「取得財産の価額」に国外財産を含めるかどうかは相続人ごとに変わります。
国外財産は「見えている」という前提で臨む
かつて国外財産は把握が困難でしたが、現在は複数の情報網が整備されており、税務当局は申告前から相当程度の情報を持っています。
| 情報源 | 内容 |
|---|---|
| CRS情報 | OECD共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報の自動的交換。平成30年から運用され、氏名・住所・口座番号・口座残高・利子配当等が各国税務当局間で交換されます。 |
| 国外送金等調書 | 100万円超の国外送金・受金について金融機関から税務署へ提出される法定調書。制度は平成10年に創設され、長期にわたりデータが蓄積されています。 |
| 国外財産調書 | 非永住者以外の居住者で、12月31日時点の国外財産が5,000万円超の場合に提出義務。提出期限は翌年6月30日(令和5年分以後)。 |
| 財産債務調書 | 所得2,000万円超かつ財産3億円以上等、または財産10億円以上の場合に提出義務。 |
| 租税条約等に基づく情報交換 | 個別の要請に基づく情報交換のほか、自発的情報交換・自動的情報交換により、現地の登記情報等も入手されます。 |
また国税庁には富裕層の情報を重点的に集約する専門部署が置かれており、国際的な資産保有者は継続的にモニタリングされていると考えるのが実態に近いといえます。
国外財産調書は「出しておく」ことが最大の防御
国外財産調書は、単なる報告義務ではなく加算税の軽減・加重に直結する制度です。調査官の立場から見ても、調書の提出状況は納税者の姿勢を測る指標になります。
| 状況 | 加算税の取扱い |
|---|---|
| 期限内に提出し、記載した国外財産に申告漏れが生じた | 過少申告加算税等を5%軽減 |
| 未提出、または記載すべき国外財産の記載がない | 過少申告加算税等を5%加重 |
| 調査で国外財産関係書類の提示等を求められ、指定期限までに応じなかった | 5%軽減は不適用、加重割合は5%→10%に拡大 |
期限後の提出であっても、調査による更正等を予知してされたものでないときは期限内提出とみなされ、5%軽減の対象となり得ます(国送法6④)。「出し忘れに気づいたら、調査通知が来る前に出す」——これが実務上の鉄則です。
特に厳しく見られる行為
・相続開始の直前に国内資産を海外へ移転する行為。国外送金等調書で捕捉されるため、時期と金額から意図が推認されます。
・相続開始後に海外口座から預金を引き出し、または口座を解約する行為。相続財産の隠ぺいと認定されれば重加算税(35%〜40%)の対象となります。
・海外に居住する親族名義の口座に資金を集約する、いわゆる名義預金。名義人の管理支配の実態がなければ被相続人の財産と認定されます。
・扶養義務者間の生活費・教育費送金(相法21の3①二)を名目としながら、実質的に受贈者の財産形成に充てられている送金。
納税者側で講じておくべき対策
・海外移住する場合は、住所移転の実体を客観的資料で残す。賃貸借契約書、現地の在留許可、現地での就労状況、光熱費の支払実績、家族の帯同状況などを保存しておくことが有効です。
・出入国記録は税務当局が正確に把握しています。滞在日数は自らも記録し、申告内容と矛盾がない状態を保ちます。
・国外財産調書・財産債務調書は、提出義務がある限り必ず期限内に提出する。加算税5%の差は、国外財産が高額であるほど大きな金額差になります。
・相続人ごとに納税義務者区分を個別判定し、判定根拠を書面化しておく。特に相続人が複数国に居住する場合は必須です。
・国外財産の評価資料(現地の残高証明、不動産の鑑定・評価資料、為替レートの根拠)を相続開始日時点で整備しておく。後から遡って取得するのは困難です。
・外国で相続税相当額を納付した場合は、外国税額控除(相法20の2)の適用を検討する。ただし無制限納税義務者に限られ、また控除限度額の計算が必要です。
・相続開始前後の海外への資金移動は、目的と経緯を説明できる資料を必ず残す。合理的な理由があっても、説明できなければ疑義を招きます。
国際相続の調査は、国内案件に比べて準備・照会・確認に時間を要するため、調査官も相応の心証を持って着手します。裏を返せば、住所判定の根拠・国外財産の網羅性・評価資料の3点が整理されていれば、調査は短期間で終わることが多いと考えてください。
◯ 調査官の本音
国際相続事案に関しては、近年のグローバル化と資産形成手段の多様化に伴い、国税庁においても最重点課題として臨んでいるというのが実態です。
しかし、理想と現実が乖離するのはどこの世界でも同じで、調査現場のレベルでは組織の号令に見合った人員とノウハウが整っているかというと、そうではない現状があるのです。
先ほどから、国税サイドがすべてを知った上で調査に臨んでくるような言い回しをしていますが、それは事実でもあり、他方で誇張された部分もあります。実際にさまざまな情報が集約され、調査官のもとにあることは事実ですが、その意味合いと効用を理解し最大限に活用できるかどうかは調査官の能力しだいであり、国際事案に関していえば、調査官の能力が及第点に至っているケースはそう多くはありません。
したがって、相続税調査全般にもいえることですが、特に国際相続事案に関しては、調査官のレベル感を理解した上での対応というのが非常に重要となってきます。
ですので、例えば相続税の申告自体は普段お世話になっている税理士にお願いするとしても、いざ税務調査の対応となったら、調査実務に精通した税理士にもサポートを依頼するなど検討することをお勧めします。ケースにもよりますが、最終的な税負担が数百万円単位で変動することも十分ありえます。
他の記事でも触れていますが、相続税調査の実調率の高さを考えると、相続税の申告に関していえば、申告書作成の実績も大事ですが、いざ税務調査が入った時のことまで見据えた税理士選びが重要といえます。
まとめ
相続税の課税範囲は、相続人の住所・国籍と被相続人の区分の組み合わせで決まります。無制限納税義務者なら全世界財産が、制限納税義務者なら国内財産のみが課税対象です。判定は相続人ごとに個別に行う必要があり、一律に同じ区分としてしまう誤りが実務では最も多く見られます。
調査で最初に検証されるのは「住所」です。住民票ではなく生活の本拠という客観的事実で判定されるため、海外移住の実体を示す資料を平時から残しておくことが有効な備えになります。あわせて、国外財産調書の期限内提出は加算税5%の差に直結しますので、提出義務がある限り必ず対応してください。
【根拠法令等】
相続税法 第1条の3、第2条、第3条、第10条、第11条〜第16条、第13条第2項、第19条、第20条の2、第21条の3、第21条の9、第21条の14〜第21条の16、第27条、第33条、第66条/国税通則法 第117条/内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律 第5条・第6条/相続税法施行令 第1条の13・第1条の15/相続税法基本通達 1の3・1の4共-3、1の3・1の4共-5、1の3・1の4共-6、10-2、10-6/令和5年改正法附則第19条
【参考裁判例】最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決(いわゆる武富士事件)
※本記事は令和8年(2026年)8月時点の法令等に基づいて作成した一般的な解説であり、個別の事案への適用を保証するものではありません。実際の判断にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
元国税調査官の税理士が、相続人ごとの納税義務者区分・住所判定の根拠・国外財産の網羅性を確認し、税務調査で指摘されるリスクを事前にチェックします。まずは無料相談からお気軽にご相談ください。
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