相続税の計算方法

相続税とは、亡くなった方(被相続人)から財産を引き継いだ相続人が、その財産の価額に応じて納める税金です。すべての相続に課税されるわけではなく、相続財産の総額が「基礎控除額」を超えた場合にのみ申告・納税の義務が生じます。ここでは、相続税の計算の流れをステップごとに確認したうえで、税務調査で実際にどこが見られているのかを解説します。

STEP 1|遺産総額の把握

まず、被相続人が所有していたすべての財産を集計し、「遺産総額」を算出します。

課税対象となる主な財産

・不動産(土地・建物)
・現金・預貯金・有価証券
・生命保険金(「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠を超えた部分)
・死亡退職金(「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠を超えた部分)
・相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産(年110万円の基礎控除額を超えた部分)
・相続開始前7年以内の暦年贈与財産(2024年1月以降の贈与。それ以前は3年以内)

差し引けるもの(債務控除・葬式費用・非課税財産)

・借入金・ローン残債・未払医療費・未払租税公課などの債務
・葬式費用(通夜・告別式・火葬・埋葬費用など)
・非課税財産(墓地・墓石・仏壇仏具、公益目的の財産など)
⚠️

葬式費用として差し引けないもの(相続税法基本通達13-5)
・香典返しの費用
・墓地・墓碑の購入費用、仏壇仏具の購入費用
・初七日・四十九日などの法要にかかる費用
・遺体の解剖にかかる費用

STEP 2|正味の遺産額の計算

遺産総額から、債務・葬式費用・非課税財産を差し引き、生前贈与加算の対象となる財産を加えた金額が「正味の遺産額(課税価格の合計額)」です。

正味の遺産額の計算式

遺産総額 - 非課税財産 - 葬式費用 - 債務
+ 生前贈与加算対象財産

【2024年改正】生前贈与加算期間の延長(暦年課税)
・改正前:相続開始前3年以内の贈与が持ち戻し対象(2023年12月31日以前の贈与)
・改正後:相続開始前7年以内の贈与が対象(2024年1月1日以降の贈与から段階的に適用)
・経過措置:延長された4年間(3年超7年以内)の贈与については、合計100万円まで加算不要
・完全に7年適用となるのは、2031年1月以降に発生する相続から
・対象者は「相続または遺贈により財産を取得した人」。財産を相続しない孫などへの贈与は原則対象外

STEP 3|基礎控除額の計算

正味の遺産額が「基礎控除額」以下であれば、相続税は課税されず、申告も原則不要です。基礎控除額は以下の計算式で算出します。

基礎控除額の計算式

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

📦 計算例|法定相続人が3人の場合

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

正味の遺産額が4,800万円以下なら、相続税はかかりません。

「法定相続人の数」のカウントに関する注意点
・相続放棄をした人がいても、放棄がなかったものとして人数に含める
・養子は人数制限あり:実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで
・特別養子縁組による養子、配偶者の連れ子を養子にした場合などは実子として扱う
・代襲相続人は人数に含める

STEP 3-2|財産評価の特例(小規模宅地等の特例)

相続財産に自宅や事業用の土地が含まれる場合、「小規模宅地等の特例」により土地の評価額を大幅に減額できます。相続税額を左右する最も重要な特例のひとつです。

宅地等の区分 限度面積 減額割合
特定居住用宅地等(自宅) 330㎡ 80%
特定事業用宅地等(事業用) 400㎡ 80%
特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用宅地等(賃貸用) 200㎡ 50%
⚠️

小規模宅地等の特例の重要な注意点
・この特例を適用した結果、相続税額がゼロになる場合でも「相続税の申告」は必須
・原則として申告期限(10ヶ月)までに遺産分割が確定していることが必要
・分割が間に合わない場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出により後日適用可能
・配偶者が自宅を取得する場合は、同居していなくても適用できる
・同居親族が取得する場合は、申告期限まで居住・保有を継続することが要件

STEP 4|課税遺産総額の計算

正味の遺産額から基礎控除額を差し引いた金額が「課税遺産総額」です。この金額に対して相続税が計算されます。

課税遺産総額の計算式

正味の遺産額 - 基礎控除額

STEP 5|相続税の総額計算

課税遺産総額を、実際の分け方に関係なく、各相続人が法定相続分どおりに取得したと仮定して按分します。それぞれの取得金額に税率を適用して税額を求め、その合計が「相続税の総額」となります。

相続税の速算表

法定相続分の取得金額 税率 控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円
計算式

(法定相続分による取得金額 × 税率)- 控除額 = 各人の税額
→ その合計 = 相続税の総額

STEP 6|各相続人の納付税額

相続税の総額を、実際の相続割合(実際の取得割合)に応じて各相続人に按分し、そこから各人の事情に応じた加算・控除を行って納付税額を確定します。

各人の算出税額

相続税の総額 × 各人の実際の取得割合

加算されるもの

相続税額の2割加算

被相続人の一親等の血族および配偶者以外の人(兄弟姉妹、孫養子など)は、税額の2割が加算されます。

主な税額控除(控除する順序が定められています)

・①贈与税額控除:生前贈与加算された財産にかかっていた贈与税額を控除
・②配偶者の税額軽減:配偶者の法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い金額まで非課税
・③未成年者控除:(18歳 - 相続開始時の年齢)× 10万円(2022年4月以降の相続。それ以前は20歳)
・④障害者控除:(85歳 - 相続開始時の年齢)× 10万円(特別障害者は20万円)
・⑤相次相続控除:10年以内に相次いで相続が発生した場合、前回の相続税額の一部を控除
・⑥外国税額控除:国外財産について外国で相続税に相当する税を課された場合に控除
⚠️

配偶者の税額軽減の落とし穴
・配偶者の税額軽減を適用して税額がゼロになる場合でも、相続税の申告は必須
・一次相続で配偶者に寄せすぎると、二次相続(配偶者自身の相続)で税負担が重くなる場合がある
・一次相続・二次相続の合計税額でシミュレーションすることが重要

【重要】近年の主な税制改正・通達改正

近年の改正により、生前贈与や不動産評価に関するルールが大きく変わりました。従来の相続対策がそのまま通用しないケースが増えています。

① 生前贈与加算期間の延長(2024年1月1日〜)
・暦年課税の加算期間が3年 → 最大7年に段階的に延長
・2031年1月以降の相続で完全に7年分が持ち戻し対象
・延長4年間の贈与は合計100万円まで加算不要という緩和措置あり
・駆け込み贈与の効果が薄れ、早期からの計画的な贈与がより重要に
② 相続時精算課税制度への年110万円基礎控除の新設(2024年1月1日〜)
・相続時精算課税制度に、暦年課税とは別枠で年110万円の基礎控除が新設
・この110万円以下の贈与は贈与税・相続税ともに非課税で、贈与税の申告も不要
・2,500万円の特別控除とは別枠で毎年使える
・精算課税を選択した後の贈与は期間を問わず相続財産に加算されるが、この年110万円の基礎控除以下の部分は加算の対象外
・一度選択すると暦年課税には戻れず、精算課税により贈与した宅地は小規模宅地等の特例の対象外となる点に注意
③ 分譲マンションの評価方法の見直し(2024年1月1日〜)
・国税庁「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)が適用開始
・従来は市場価格が相続税評価額の平均2.34倍という乖離があると指摘されていた
・築年数・総階数指数・所在階・敷地持分狭小度の4要素から「区分所有補正率」を算出
・市場価格の最低6割水準となるよう補正され、都市部のマンションは評価額が上昇
・いわゆるタワマン節税の効果は大きく縮小
④ 相続登記の義務化(2024年4月1日〜)
・不動産を相続で取得した場合、取得を知った日から3年以内に相続登記の申請が義務
・遺産分割が成立した場合は、成立日から3年以内に登記申請が必要
・正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料が課される可能性
・施行前に発生した相続も対象(2027年3月31日までに登記が必要)
・期限内の登記が難しい場合は「相続人申告登記」により義務を履行できる
⑤ 令和8年度税制改正で決まった見直し
・教育資金の一括贈与に係る非課税措置(1,500万円)は延長されず、令和8年3月31日をもって終了
・課税時期前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産は、取得額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%で評価する方向
・不動産小口化商品は、取得時期にかかわらず通常の取引価額(時価)で評価
・いずれも令和9年1月1日以後に相続・贈与により取得する財産の評価に適用予定
・借入金で賃貸不動産を購入する従来型の相続対策は、効果が大きく制限される見込み
・評価方法の詳細は今後発遣される財産評価基本通達等で確定するため、必ず最新の内容を確認してください

申告・納税の注意点

⚠️

申告期限
・相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内
・配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額がゼロになる場合も申告は必要
・期限を過ぎると無申告加算税・延滞税が課される場合があります

納税方法
・金銭による一括納付が原則です
・困難な場合は、延納(分割払い)や物納(不動産などで納付)の制度もあります
・延納・物納は申告期限までに申請書の提出が必要です
ペナルティの種類 内容
過少申告加算税申告額が少なかった場合(原則10%〜15%)
無申告加算税申告しなかった場合(原則15%〜30%)
重加算税仮装・隠蔽があった場合(35%〜40%)
延滞税法定納期限の翌日から納付日までの期間に応じて課される

元国税調査官の視点

ここからは、税務調査を実施する側がどこを見ているのかという観点で解説します。相続税は税目の中でも調査による指摘割合が突出して高く、事前の備えが結果を大きく左右します。

数字で見る相続税調査の実態
実地調査9,512件のうち
82.3%で申告漏れ等を指摘
令和6事務年度・国税庁公表
・実地調査件数:9,512件(前事務年度比111.2%)
・申告漏れ等の非違件数:7,826件、非違割合:82.3%
・実地調査1件当たりの申告漏れ課税価格:約3,093万円、追徴税額:約867万円
・重加算税の賦課件数:1,065件(賦課割合13.6%)
・申告漏れ財産の内訳トップは「現金・預貯金等」837億円(有価証券393億円、土地353億円)
・文書・電話等による「簡易な接触」は約22,000件と実地調査の倍以上

① 調査官は「臨場前」に勝負を決めているケースが多い

調査官が自宅に来る時点で、その事案の疑問点はほぼ絞り込まれています。国税庁の運用するシステムには、過去の申告データに加え、金融機関や保険会社から提出される法定調書が蓄積されています。被相続人の生涯収入からおおよその蓄財額を推計し、申告された財産額との差が大きい事案が調査対象に選ばれる傾向があります。

したがって、相続税の調査があると決まった時点で、調査官が上記のスタンスで調査に臨んでくるものと心の準備をしておきましょう。不慣れな調査官は結論ありきで文脈を無視した質問をしてきますが、このような前提を知っていれば、突拍子もない質問にも冷静に対応できるでしょう。

調査官が事前に把握していること

・被相続人の過去10年分程度の所得・確定申告の内容
・生命保険金の支払調書(保険会社から税務署へ提出される)
・不動産の登記情報・固定資産税情報
・国外送金等調書(1回100万円超の海外送金は税務署に把握される)
・CRS(共通報告基準)による海外口座情報の自動的交換
・相続人・配偶者名義の口座情報(被相続人本人の口座に限られない)

② 最大の論点は「名義預金」

申告漏れ財産の約3割を現金・預貯金等が占めるのは偶然ではありません。調査官がまず検討するのは、配偶者や子・孫名義の口座が実質的に被相続人の財産ではないか、という点です。名義が誰かではなく、実質的に誰の財産かで判断されます。

名義預金と認定される典型パターン

・名義人本人が口座の存在を知らない、通帳や印鑑を見たこともない
・通帳・印鑑・キャッシュカードを被相続人が管理していた
・名義人の収入水準に対して預金残高が明らかに多い
・口座開設時の筆跡が被相続人のもの、届出印が被相続人の印鑑と同一
・入出金の痕跡がなく、被相続人の口座から定期的に入金されているだけ
・贈与契約書がなく、贈与税の申告もされていない

【対策】名義預金と言わせないための実務

・贈与のつど贈与契約書を作成し、日付・当事者の署名押印を残す
・受贈者が普段使っている口座に振り込み、通帳・印鑑は受贈者本人が管理する
・受贈者が自分の意思で自由に使える状態にしておく(使った実績があるとなお良い)
・あえて年110万円を少し超える額を贈与し、贈与税を申告・納付して記録を残す方法も有効
・毎年同額・同日の贈与は定期贈与と見られるリスクがあるため、金額や時期に変化をつける
・生前に家族名義口座を洗い出し、被相続人の財産か整理しておく

※税務調査に精通した国税出身の税理士なら、故人の口座の過去の動きや生前の財産状況などから、遺族が把握できない家族名義口座を発見できるかもしれません。不安な場合は、財産調査から税理士に依頼をするのもいいかもしれません。

③ 亡くなる直前の出金は必ず追跡される

国税庁が公表する調査事例にも、相続開始前に引き出した多額の現金を相続人宅で保管し、関与税理士にも伝えず申告から除外していた事例が挙げられています。調査官は被相続人の口座の入出金履歴を通常3〜5年、必要に応じて10年分遡って確認します。使途不明の大口出金があれば、その資金がどこへ行ったのかを必ず問われます。

【対策】出金の使途を説明できるようにしておく

・入院費・介護費・自宅リフォームなどの大口支出は領収書を保管する
・手元現金(いわゆるタンス預金)は、相続開始時点の残高を必ず申告に含める
・生前に子や孫へ資金援助した場合は、贈与か立替かを書面で明確にしておく
・被相続人の口座から相続人が代理で引き出した分は、相続財産として計上する
・貸金庫がある場合は、その存在と中身を必ず税理士に伝える(貸金庫の開扉履歴も調査対象となります)

④ 土地評価は「減額要因の適用漏れ」がもったいない

調査は追徴のために行われるものですが、実務でよく見るのは、納税者側が税額を減らす術を適用しきれていないケースです。土地評価は個別性が高く、現地確認や役所調査をしないと拾えない減額要因が数多くあります。申告書を作る側がここに手をかけているかどうかで、税額は大きく変わります。

見落とされやすい土地の減額要因

・不整形地・間口狭小・奥行長大による補正
・私道・セットバックを要する部分の評価減
・高圧線下地、都市計画道路予定地
・傾斜地・崖地、地盤に難のある土地
・土壌汚染や埋蔵文化財包蔵地に該当する土地
・広大な土地に適用される地積規模の大きな宅地の評価

相続税の調査が入ると決まった場合は、土地を含めた財産の評価が正しく行われていたかを再度確認することをおすすめします。なぜなら、調査官は財産の過大評価(税金の納め過ぎ)があっても教えてくれないからです。もし過大に評価している財産があれば、調査で申告漏れの財産が発見された場合の影響を減殺できる可能性があります。

⑤ 調査対象になりやすい事案の傾向

・遺産総額が概ね2億円を超える事案
・被相続人の生涯収入から見て、申告財産額が不自然に少ない事案
・配偶者や子の名義財産が、その人の収入に比して多額な事案
・海外資産・外資系金融機関との取引がある事案
・無申告事案(1件当たりの追徴税額は約2,187万円と実地調査平均を大きく上回る)
・税理士関与のない自分での申告、または相続税に不慣れな税理士による申告

※海外資産関連調査は増加傾向です。専門部署も新設されるなど、国税側も重点課題としています。

⑥ もし調査の連絡が来たら

・調査は通常、申告期限から1〜2年後(主に7月〜12月)に事前通知のうえ実施される
・分からないことは推測で答えず、「確認して後日回答します」で構わない
・調査官の指摘に納得できない場合、無理に修正申告に応じる必要はない
・申告漏れに気づいたら、調査の連絡が来る前に自主的に修正申告をすることで加算税が軽減される

⚠️

必ず税理士に立ち会いを依頼してください。営業文句ではなく、単独対応は間違いなく追徴税額の増加に繋がります

仮装・隠蔽と認定されると重加算税(35〜40%)の対象となり、負担が大幅に増えます。調査官は第一に重加算税の賦課を念頭に置いて調査を進めます。あってはならないことですが、客観的に要件を満たしていないにも関わらず、調査の早期収束などをちらつかせ、重加算税の賦課を許容させるようなケースもあります。単独対応がおすすめされない理由の1つです。

まとめ

✅ 総括:調査官が最も重視するのは「説明できる状態」かどうか

財産を隠すことより、資金の流れを説明できないことが問題になります。生前のうちに財産目録を作り、家族名義財産の整理と資金移動の記録化をしておくこと。これが最も確実で、結果的に家族を守る相続対策になります。

相続税の計算は複雑で、特例や控除の適用漏れが生じやすい分野です。特に土地の評価や名義財産の判断には実務経験が大きく影響しますので、相続税申告の実績が豊富な税理士への早めの相談をお勧めします。

※本記事は2026年8月時点の法令・通達および国税庁公表資料に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談に代わるものではありません。令和8年度税制改正に基づく財産評価の見直しについては、今後発遣される通達により内容が変更される可能性があります。

濱名柾明
税理士 濱名柾明
元東京国税局職員(13年・税務調査実績200件超)

東京国税局にて13年間、法人・個人事業者の税務調査に従事。調査官として現場で見てきた実態をもとに、経営者にとって本当に役立つ税務情報を発信している。現在は濱名税理士事務所にて税理士として、税務顧問・税務調査対応・相続税申告等を中心に業務を行う。

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