会社を経営していると、売上をどうやって伸ばすかという悩みは尽きないかもしれません。しかし、売上をいつ計上するか(今月の売上とするか、来月の売上とするか)で悩んだことがある方はあまりいないのではないでしょうか。
税務調査においては、指摘されることの多いポイントの1つですので、基本的な考え方をご紹介します。
売上はいつ計上する?よくある誤解
売上をいつ計上するか、みなさんはどう考えますか?
よくある「売上計上のタイミング」の候補
- 受注が決まったとき
- 契約書を交わしたとき
- 代金をもらったとき
いろいろな考え方があると思います。でも、各々の判断に任せていては、仮に同じ業績の会社が2社あっても、決算の内容はまったく異なるものになってしまいます。
そこで、税務上は(専門用語になりますが)「権利確定基準」といった考え方に基づき、売上の計上時期を判断することとしています。それでは、噛み砕いて解説します。
税務上のルール——「権利確定基準」とは
その名のとおり、(売上代金をもらう)「権利」が「確定」したら売上を計上しましょう、という考え方です。では、「権利」の「確定」ってなに?となりますよね。
要するに、取引先に請求して、代金を払ってもらえる状況に至っているかどうか。至っていれば売上を計上しましょう、といった感じです。
先ほどの例で考えると
①受注が決まった段階・②契約書を交わした段階では、代金などもらえないのが普通ですよね?
③代金をもらっているということは、その前に請求すればもらえる状況になっているはず(そもそもこれでは、売上の計上時期をいかようにも操作できてしまいます)。
よって、①〜③はいずれも売上の計上時期として正しくないという結論になります。
業種ごとの「権利確定」のタイミング
契約内容や取引慣行によって多少の違いはありますが、代表的な業種では、一般的に次のような段階に至れば「権利」が「確定」したものとして、売上の計上が求められます。
| 業種 | 売上を計上するタイミング |
|---|---|
| 小売業・卸売業 | 商品を引渡した時 |
| 建設業 | 建設物を完成し引渡した時 |
| 建設業(解体業など完成物の引渡しを要しない場合) | 作業完了の時 |
| サービス業 | サービスの提供を完了した時 |
| 賃貸業・リース業 | 貸付期間の経過した時 |
元国税調査官の視点
調査官の最優先検討事項――売上除外
売上除外とは、その名のとおり法人の売上を帳簿の計上から除外することです。後述する「期ズレ」と異なるのは、当期どころか翌期以降も永久に売上が帳簿に反映されない点です。売上除外が行われる動機の多くは、経営者を含めた実行者の個人蓄財や裏金など、不正資金の原資作りといったものです。税務調査で売上除外が見つかれば重加算税の対象となり、金額が大きければ刑事告発(いわゆる査察調査)される可能性すらあります。調査官の人事評価にも影響するため、売上除外は最優先検討事項になるのです。
意図的な売上除外は論外です。我々税理士もサポートの余地がありません。しかし、中には意図的ではなくとも売上除外と認定され、重加算税が課されるケースがあるので、今回はその例をご紹介します。
その例が現金売上の計上漏れです。小売業や飲食業など掛け取引の少ない現金商売では、業務過多により現金や取引書類の管理がおろそかになり、結果として売上の計上漏れや現金残高の不一致が起きやすい傾向があります。
細かな思考プロセスは抜きにして、多くの調査官は「現金売上の漏れ=重加算税の対象」と考えています。しかし、果たしてそれは正しいのでしょうか。
現実問題として、管理がおろそかで意図的でなくとも現金売上の計上が漏れることはあります。国税庁が公表している重加算税に関する事務運営指針でも「売上の脱漏」を重加算税の対象としていますが、その前提として「帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず」という前置きがあります。
売上に関する帳簿書類といっても、その様式や形式に厳密な決まりはありません。したがって、たとえ決算への計上が漏れていても、計上の漏れていた現金売上について何らかの記録をしている資料があれば、その資料をもって「帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録」をしているものと主張し、重加算税の適用を避けられる可能性があります。
別の視点から、普段の現金管理がおろそかである点をあえて主張することで、重加算税の適用を避けるという発想もあります。なぜなら、重加算税を賦課するには、調査官は納税者による意図的な隠ぺい行為(この場合は売上の脱漏)を認定しなければならないからです。現金管理がおろそかであることは、現金売上を意図的に除外したわけではないことを間接的に立証する方向に働くとも考えられます。ただし、この主張は法人に対する調査官の心証を悪くすること、リスクは低いものの青色申告の取消し対象となる可能性があるため、注意が必要です。
この点に関する理論的な側面は、また別の機会にお話しします。
売上の計上時期の確認――いわゆる期ズレの調査
売上除外とともに必ず検討される事項が、売上の計上時期の適否、いわゆる「期ズレ」の問題です。
今期の売上とするか翌期の売上とするかという問題は、長い目で見れば法人の利益に違いは出ません。しかし、先に述べたとおり、会計・税務の世界では一定のルールに則った売上計上が求められます。
売上の計上時期の誤りに関しても、たとえば得意先と通謀して、今期に引渡しの済んでいる商品や工事について、受領書の日付や検収書の検収日を意図的に翌期にずらし、利益を圧縮するような操作が行われた場合は、重加算税の対象となります。
今回は、法人サイドと調査官サイドとで、売上の計上時期(引渡しや役務提供の完了時期)の考え方に相違があるようなケースの対応についてお話しします。
明らかに納品が済んでいる、あるいは工事が完成し引渡しが済んでいるような取引で、売上の計上が翌期にズレているものが調査の過程で見つかれば、納税者サイドもなかなか反論できません。
しかし、私の経験則として見解の相違が生じるケースの多くは、その法人の通常の取引サイクルとは異なるイレギュラーな事項(仕様や決済などに関する契約条件、トラブル、法規制など)が含まれる取引です。
このようなイレギュラーな取引でも、調査官は基本的に通常の取引と同様の考え方で計上時期のズレを指摘してくる傾向があります。そのため、納税者サイドはその取引が通常の取引と異なる点を武器に反論する必要があります。
先に述べた売上計上時期の考え方「権利確定基準」に当てはめれば、そのイレギュラーな事項があることによって、当期末時点ではその取引に関する売上代金を相手方に請求し、確定的に収受することができない事情があったことを調査官に説明できればよいのです。
調査官は税務のプロであっても、法人の営む事業内容に関しては素人です。この説明がしっかりできれば、修正を免れることができるでしょう。
最後に
たかが売上をいつ計上するかの問題と思われるかもしれませんが、時期のズレにより決算数値が異常値になることもあります。そうなると税務調査の対象として選定されるリスクも上がります。調査で指摘されれば、加算税という無用なコストも発生しますので、これまで意識されてこなかった方は、ぜひこの機会に見直しをしてみてはいかがでしょうか。
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