第3回 重加算税の賦課要件(過少申告の認識の要否)

シリーズ:重加算税制度について考える

前回は重加算税の賦課要件を4つに整理しました。今回は各要件の個別検討に入る前に、主観的要件——誰のどこまでの認識(故意)が必要か——というテーマを取り上げます。実務上も誤解が多い論点です。

「認識(故意)」が必要なことは字義から明らか

重加算税の賦課要件として、何らかの認識(故意)が必要なことは「隠ぺい又は仮装」という字義から自然に読み取れます。無意識・過失による隠ぺい行為や仮装行為は観念できません。

問題は、求められる認識とは具体的に何かという点です。ここには、課税当局の職員や税理士等の専門家を含め、誤った理解をしている方が少なくありません。

結論:「過少申告」の認識は不要

主観的要件の結論
必要なのは「隠ぺい又は仮装」の行為に対する認識(故意)のみ
「過少申告」の認識(故意)は不要
❌ 誤った理解(よくある誤解)
「過少申告=税金を安くする意図」まで必要と考える。
→ 理論的には誤り
✅ 正しい理解
事実を「隠ぺい又は仮装」する意図さえあれば、主観的要件は満たされる。過少申告の意図は不要。
💡 実務上は、重加算税が課されるケースのほとんどで行為者に過少申告の意図があるため、この要件が表立って争われることは多くありません。しかし理論上は重要な論点です。

昭和62年5月8日 最高裁第二小法廷判決

上記の結論を示した有名な最高裁判決があります。

📖 最高裁昭和62年5月8日第二小法廷判決(要旨)
「国税通則法68条に規定する重加算税は……故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから(最高裁昭和45年9月11日第二小法廷判決参照)、同法68条1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。
🔵 第1下線部:必要なもの
隠ぺい又は仮装の行為の認識(故意)と、それを原因とする過少申告の結果
🔴 第2下線部:不要なもの
申告に際して過少申告を行うことの認識(故意)は不要と明示

本判決は第1回で紹介した昭和45年判決(制度趣旨)を引用し、重加算税はあくまで行政上の措置であって「故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではない」という制度趣旨を前提に、上記の結論を導いています。

なぜ「過少申告」の認識が不要なのか——理論的背景

① 制度趣旨からの説明

重加算税制度は、逋脱犯に対する刑罰とは性質が異なります。日本の刑事法は故意犯処罰の原則を採用しており、逋脱犯においては「国の課税権」(保護法益)の侵害=過少申告行為に対する故意が犯罪構成要件となります。

仮に重加算税の賦課に「過少申告」の認識(故意)が必要とすると、逋脱犯の構成要件と実質的に重複してしまい、重加算税を行政上の措置と位置付けて憲法39条(二重処罰の禁止)の射程から外した根拠が失われかねません。

② 申告納税制度からの説明(著者による考察)

💭 著者独自の考察(参考まで)

我が国は申告納税制度を採用しており、納税義務は租税法規の定める課税要件事実が充足された時点で自然と発生します。納税申告はあくまで税額の確定手続きであり、納税義務の発生それ自体には影響しません。

具体例として、所得税法33条(譲渡所得)の課税要件を見てみましょう。

📋 所得税法33条(譲渡所得)——課税要件の抽出
  • 資産の譲渡(売買・交換等)を行うこと(1項)
  • 棚卸資産等に該当しないこと(2項)
  • 譲渡の対価を得ること(3項)
  • 対価の額が取得費・譲渡費用・特別控除額の合計を超えること(3項)
📦 具体例:A氏がB氏に資産Xを売却したケース

・売却価額:200万円 / 取得費:50万円 / 譲渡費用:5万円 / 特別控除額:50万円

①〜④の課税要件事実がすべて充足されるため、A氏に譲渡所得95万円が発生。

課税要件事実は、充足する事実が存在しさえすれば、納税義務は自然と発生する。
納税申告はその「確定手続き」に過ぎない。

つまり、課税の前提となる法的事実・経済的事実を生のまま課税要件規定に取り込むことが原則です。その事実を意図的に隠ぺい・仮装する行為を防止することが重加算税の目的であり、さらに「過少申告の認識」まで要求することは、現行租税制度の趣旨からは余分な要件の付加となります。

✅ まとめ

昭和62年最高裁判決により、重加算税の主観的要件として必要なのは「隠ぺい又は仮装」の行為に対する故意であり、過少申告の認識(故意)は不要と明示されています。この結論は、重加算税を行政上の措置と位置付けた制度趣旨、および申告納税制度の構造から理論的に説明できます。

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